▽▽▽

 翌日。四、と書かれた動画がアップされた。

 新しくアップされた四は、三の続きであった。

 手に持った何かを両手で構え、野球のバットをフルスイングする要領で殴る。殴る。殴る。殴打すること三回目にしてひときわ硬質な、そして大きな音が響いたと思うと、男の体の左側に、無残に壊されたそれが見えた。

 それは、小さき神々を祀る祠の形をしていた。

 コメント欄はざわめいた。

 確かにしばらく前に、大規模SNSで祠を壊すのが流行した。しかしそれは文字での流行で、実際に壊した者はいなかったはずだ。作っていた者はいたけれど。

 日本人としては、フィクションの世界ならともかく、実際に損壊しているのを目の当たりにするのは冒涜的だと感じたのか、この祠について特定しよう、という動きが出た。


 男は入念に、丹念に祠を壊す。画面は暗く、黒く、男を取り巻いている木々の葉の形も幹の形も絶妙に潰されていて、地方すら特定できない。

 祠を破壊し尽くしたころ、一心不乱に殴打していた男は、肩で息をしていた。しかしその音は入って来ない。徹底的に、男の音声は排除されていた。

 ぶつりとノイズも走らずに動画は終わった――かに見えたが、画面はホワイトアウトした。そこに黒文字がゆるゆると浮かび上がる。

・この動画はフィクションです。

・この動画で破壊された祠は、本殿修理のため遷宮せんぐうしていただいた仮設のお社となります。神さまはすでに本殿にお戻りになられており、廃棄予定のお社を動画に使用する許可は得てあります。

・また動画内で破壊した祠はちゃんと儀式を執り行い、廃棄してあります。

*絶対に真似をしないでください。


 ゆるゆると浮かび上がったその文字は、水に溶けるようにして消えて、動画は終わった。


 許可を出したのは誰だとか、なんで関係者がこんなモキュメンタリーホラー動画撮影してアップしたんだ、などと、コメント欄は、ちょっと沸いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る