5.ウェスの告白【3】

 ウェスが落ち着くのを待って、レッドは自身が疑問に感じていたことを問う。


「一つ訊ねたいんだが。フィルギアは贄の食卓フューゼスクというじゅつで、生きたままの相手を喰らい、その能力をおのれのものにしていた。ファビアンはその犠牲にされなかったのか?」


 問いに、ウェスは首を左右に振る。


「フィルギアを契金翼エヴンハールにしたから、俺にはフィルギアの考えていることが分かるようになった。それに気付いたフィルギアは、俺がファビアンを解放することを恐れ、止める間もなく透晶珠リーヴィを破壊してしまった。贄の食卓フューゼスクじゅつを編み出したのは、王城が完成して俺が城の奥に監禁されたあとだ」

「フィルギアの考えが分かる?」

「そうだ。契金翼エヴンハールに謀反を起こされないようにする、読心術ヴァレイグという特殊技能スキルだ」

「だが、それでフィルギアの考えが分かるなら、裏をかいて逃げることは出来たんじゃないのか?」

「逃げて、どうなると言うんだ?」


 ウェスの問い返しに、レッドは言葉を失った。

 虐待を受けているものが、その状況から抜け出せない心理状態に陥ると聞くが、それが神耶族イルンにも当てはまるのだろうか?


「だが、結局ウェスを助けに同胞が攻めてきたじゃないか。それでどうしてキミは、あの山中の洞窟に一人でいたんだ? 迎えに来た仲間はどうした?」

「王城を破壊されて、俺は同胞たちに保護された。でも、神耶族イルンってのは成人マンナズを済ませたら個人主義が基本だとか言われて、好きにしろと言われた」

「それはなかなか、アフターケアが雑だな……」


 思わず、苦笑いしか出ない。


「どうしていいかわからなくなって、もうどこかに行って何をするのも面倒になって、見つけた洞窟で暮らしていた」


 簡単に「面倒」と言うが、その孤独がどれほど深いものか、レッドには容易に理解できた。


「ウェスの事情は分かった。で、ウェスはこれからどうしたい?」

「どう、とは?」

「ウェスがどうしたいかだ。私と行動をともにするのが、神耶族イルンの個人主義的に面倒だというなら、別れる選択肢もある。私としては、キミと旅をして、良い友人になれたら良いと思っているんだがね」

「友人って、なにをするんだ?」


 問いかけに、レッドは肩を竦めてみせる。


「一緒に旅をして、飯を食って、話をして? なんでもいい。互いに好きに過ごせばいいさ」

「オマエは契金翼エヴンハールに成りたくないのか?」

「ないね。正直、グランヴィーナにもらった寿命すら、持て余している。だが、せっかく生かしてもらった命を無駄に捨てるのは性に合わん。生きられる限り、出来るだけ前向きに生きる。それが私の方針だ」

「変わったやつだな、オマエ」

「良く言われる」

「そうなのか?」

人間リオンの常識からすると、気安い魔導士セイドラーはかなりオカシイらしい」


 レッドが笑うと、ウェスも釣られたように笑った。


「俺も、出来ればレッドと一緒にいたい。いいか?」

「そうしたいと言っただろう?」


 レッドが右手を差し出すと、ウェスは不思議そうな顔でその手を見つめる。


「これは握手だ。互いに手を握り合い、意見の合意や親愛、友情を態度で示すんだ」

「……こうか?」


 おずおずと、ウェスが右手を差し出す。

 レッドはその手を取り、小さな手をぎゅっと握った。

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