5.ウェスの告白【2】

「ファビアンが……」

「それはキミの守護者ケルヴィンガーの名か?」


 ウェスは頷いた。


「ファビアンは、人間フォルクのような有象無象は、力のある種族が導いてやらなければ駄目だ……ってのが口癖だった」


 ウェスの語り口は、どこか苦々しげにも聞こえる。


「ファビアンは積極的に人間フォルクと関わりを持って、行く先々で相談に乗ったりしてた。俺は、最初はファビアンのやってることはすごくかっこいいって思ってたんだ」


 ウェスが微笑むような表情をしたが、それはすぐに消えた。


「導く……って言葉に、私は少々引っかかるんだが?」

「ああ、その通り。ファビアンには少し傲慢なところがあって。俺への指導も時々横柄おうへいに感じる時があった」

「フィルギアとは、どこで?」

「今になって思えば、フィルギアはわざとあそこにいたんだと思う。幻獣族ファンタズマを狩ろうとして失敗した……と言って、傷ついて倒れていたんだ」

「つまり、自傷していた可能性が?」


 ウェスは肩をすくめた。


「そこはわからない。ただ、フィルギアに出会う前、俺たちが立ち寄った村にやつもいたんだ。ファビアンはその時、水車を作るのに夢中でな。人間フォルクの村に留まって、水車を作る指導をするのが楽しかったらしい」

「キミたちが滞在している間に、フィルギアはファビアンの性格を分析して、計画を立てていた……と?」

「フィルギアの態度に、ファビアンはすぐに庇護欲をくすぐられたんだと思う。傷はファビアンのじゅつですぐに癒えたけど、お礼がしたいとフィルギアの小屋に案内されて。そこで二人は一晩中、酒盛りをしてたんだ」

神耶族イルンは酒で酔っぱらうのか?」

「それはない。ただ、フィルギアの話に良い気になったファビアンは、フィルギアにじゅつを掛けられていることに気付くのが遅れて、透晶珠リーヴィにされた」

「術中にはめられたのだな……」

「ファビアンは、自分が完全に透晶珠リーヴィになる前に、俺に逃げろって言ったんだ。でも俺は、ファビアンを見捨てて逃げられなかった」

「それで、ファビアンはどうなった?」


 レッドの問いに、ウェスの顔は曇る。

 フィルギアの契金翼エヴンハールと成ったあと透晶珠リーヴィとなったファビアンを手元に残しているとは思えない。


「すまん。聞くまでもなかったな……」

「ファビアンは、最後に自業自得だから気にするなって……」


 ウェスは、初めて激しい感情を見せた。

 レッドはそっとウェスの隣に座り、その背中を優しく撫でる。


「ウェス。正直に言えば、キミのその選択によって、人間リオンは最悪の歴史を刻んだと思う。私もその厄災に巻き込まれた一人と言えるだろう」


 小さな肩がビクッと揺れた。


「だが、私はそれを恨んではいない。フィルギアがソルタニト王国をつくらなければ、私はグランヴィーナにもラトゥフにも出会えなかった。心から信頼できる友が得られたのは、私の人生において最も喜ばしいことだったからな」


 その言葉を信じられない様子で、ウェスはレッドの顔を見る。


「確かに私は人間リオンでありながら幻獣族ファンタズマとなり、人間リオンの社会で生きにくくなってしまったが。だが、凡庸な人生と引き換えに得たこの経験は、私にとって珠玉の宝石より大切なんだ。もう一度選び直せと言われても、私はこちらを選ぶ。たとえ最後に必ず、一人残されることを知っていてもな」


 レッドはハンカチを取り出し、ウェスの涙を拭ってやった。

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