5.ウェスの告白【1】

「私は、簡単に言えば人間リオンの形をした幻獣族ファンタズマだ」


 レッドはそう、はっきりと言った。


幻像術ブリンディを使っているようには見えないが?」


 ウェスが目を細めて問う。


「確かに幻像術ブリンディは使ってないが、こういう物は使ってる」


 レッドが目に手をあてがってからウェスを見ると、その瞳は紅光輝石ラルドスヴァリン色をした暴威の赤イグニスだった。


「えっ? えっ?」


 じゅつを解いたような気配を感じなかったウェスは、驚き狼狽える。

 レッドはすっと、指先を差し出す。

 そこには、ウェスが見た事もない、小さなレンズ状の物が乗っている。


「これ、なんだ?」

「自作のカラーコンタクトレンズだ。なまじ幻像術ブリンディを使うより、こっちのほうがバレにくいんでな」

「こんたく……? 物理的に、瞳の色を変えてるのか?」


 レッドはコンタクトレンズを、魔法ガルズで洗浄すると、元通りに装着する。


「さて、ウェスは私がフィルギアとどう関係があるのか、と聞いたな。私はフィルギアが築いたソルタニト王国の貴族だった。だが、王から賜った秘技の習得に失敗してな。危うく下僕ユリールにされそうになったが、運良く逃げ出せた」

「その程度で、魂魄ヴェッテイルにまでニオイは移らない」


 ウェスの鋭い指摘に、レッドは苦笑する。


「逃げる時、王から贈られたハルピュイアのグランヴィーナと一緒だった。彼女は王の下僕ユリールだったが、私が秘技の習得に失敗した時、自我を取り戻して私と御縁ディストゥンを交わした」

「じゃあ、オマエはそっちのハルピュイアなのか?」

「いや。フィルギアは神耶族イルンとの戦いのため、周辺の冒険者アドベンチャーをかき集めた。その戦いで私は瀕死の重傷を負い、グランヴィーナが魂魄ヴェッテイルを捧げて助けてくれた」

「つまりそこでハルピュイアとオマエは同化したのか。ならば確かに、ヒトの形のままに幻獣族ファンタズマというのも理解できる」

「グランヴィーナは、私の先生だった。世界のことわりを教えてくれ、神耶族イルンの存在も伝えてくれた。ただ彼女の知識は体験に基づいている。神耶族イルンに関して全てが正解かどうかは分からない、ということだ」


 ウェスは考え込み、顔を上げた。


「俺は、フィルギアのあるじだった」


 その告白に、レッドは瞳をわずかに見開いた。

 驚きと共に、どこか腑に落ちる感覚があった。


「なるほど……そういうことか……」


 グランヴィーナが「彼らは同胞を奪い返しに来た」と言ったのを、レッドは思い出す。

 その「同胞」がウェスだったのだろう。


「ウェス……キミの背負っているものは、私の想像以上に重いようだな」


 かすかに自嘲を混ぜて呟く。


「なぜフィルギアを契金翼エヴンハールとしたんだ?」


 あえて核心を問うレッド。

 もしウェスがフィルギアを選ばなければ、あの戦いも、ソルタニト王国の建国もなかった。

 多くの命と運命が変わったはずだ……そう思いながら。

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