3.奇妙なコンビ【1】

 森の中の道なき道を、二人は黙って進んでいた。

 先に行くレッドは、迷いのない足取りで歩みを進め、馴れた手つきで枝を払っている。

 その動きは、森という環境に慣れ親しんでいることが伺いしれた。

 とはいえ、ウェスは子供の姿をしていても、その精神までが子供かどうかはわからない。

 なにせ相手は、永劫のときを生きる種族なのだから、見た目と精神と実際に生きている年数が一致するとは限らないのだ。

 そもそも能力値ステータスだけを比べたら、レッドよりも遥かに強靭だろうことは、容易に想像がつく。


「なかなか上手いじゃないか」


 振り返って、レッドはウェスに声を掛けた。

 ウェスの姿は、ひと目見ただけではどこにでもいる人間リオンの子供に見える。

 神耶族イルンの特徴である白髪を金髪に、翠光輝石グロンスヴァリンのような調和の緑ウェントスを、灰色がかった青の瞳に見えるよう、ウェスは幻像術ブリンディを使っている。


だれかに習ったのか?」


 問いかけに、ウェスは小さく頷いた。

 しかしそれがだれであるかは、語らない。

 心の壁を感じながらも、レッドはそれ以上問い詰めることはしなかった。


人間リオンの町は、まあどこも妖魔モンスター避けの壁なり柵で囲まれていて、入口には門番がいるもんだ。幻像術ブリンディが見破れる人間リオンはいないだろうが、同じく幻像術ブリンディを使って町に紛れている獣人族セリアンスロウには看破される危険がある。油断は禁物だ」


 ウェスは返事をしないが、レッドの後ろにしっかりと付いてきている。

 振り返ると目が合う程度にはこちらに関心がある様子で、たぶん話も聞いているのだろう。


「町に行ったら、まず冒険者組合アドベンチャーギルドに行って、ウェスの身分証を作ろう。あれがあると、旅先で便利だからな」


 ウェスから答えがないことを、場合によってはストレスに感じるかもしれない。

 しかし、今のレッドにはそれがなかった。

 というよりも、上辺だけの付き合いに疲れていた自分が、思っていた以上に孤独だったことに気付かされたのだ。

 ウェスとの旅は、久しぶりにその孤独を癒やしてくれるような錯覚があった。

 それはきっと、ウェスが置かれている特殊な状況が、自分に共感を抱かせるに充分だったからだろう。


「ウェスのほうが、私よりずっと背負っているものが重いとは思うが…な」


 レッドは苦笑しながら、自嘲するように呟く。

 傷の舐め合いというよりも、これは一方的にレッドが抱いている共感に過ぎない。

 それでも今は、気を抜いて自然体でいられる気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る