2.出会い【2】

 中に入ってみると、奥行きも幅もそれほどなく、大きめのくぼみが洞窟のようになりかけている程度だった。

 これほど浅い場所にいた子供の気配を外から全く感じなかったことに、レッドは内心少し狼狽えていた。

 子供は洞窟の奥で壁に背を預け、うずくまるように座っている。

 洞窟内を見渡したレッドは、そこに生活感が全くないことに少し驚いた。

 ここを住処にしているのなら、何かしらの痕跡があってもいいはずだが、焚き火の跡すら見当たらない。


「ちょっと留守にするが、すぐに戻るよ」


 そう言い残し、レッドは一度洞窟を出ると、近くを回って焚き火用の枝を拾い集め、見かけたうさぎのような妖魔モンスターを狩り肉を調達した。

 洞窟に戻ったレッドは、入口に簡易の妖魔モンスター避けの結界フルンドを張り、雨が入らない位置にスタンドを設置した。

 このスタンドは転生前の知識を活用して作ったもので、ラトゥフやダーインの遺産ダインスレイフと共に野営する際、レッドが提案して広めた道具だった。

 空気穴付きの金属板を数枚組み合わせて作られており、解体すればコンパクトに持ち運べる。

 冒険者アドベンチャーたちにも好評で、今では広く使われるようになった。


 スタンドの中に、拾ってきた枝を入れ、火を点ける。

 枝が湿っていても、レッドにはなんの問題もなかった。

 4つの属性エレメントを操るレッドにとって、枝を乾かして火をつけるのは、さほど手間ではなかった。

 炎が安定したのを見計らって、狩ってきた妖魔モンスターの肉を枝に刺し、持ち歩いている塩を振りかけて焼き始める。


「余裕がある。一緒に食うか?」


 肉が焼けて香ばしい香りが漂い始めた頃、レッドは子供に声をかけた。

 洞窟内に充満する香りに、空腹な子供なら目を輝かせる……そう思ったのだが、予想は外れた。

 子供はただうずくまり、感情のない瞳でこちらを見ているだけだ。


「妙だな…?」


 レッドは、内心で首を傾げた。

 いや、 "妙だ" と感じるのは、今更ではない。

 こんな魔気ガルドレートの濃度の高い場所に、子供が一人きりでいる状況が、既に不自然だ。

 だが、もしこの子がヒエラルキーの高位に属する種族であるならば、耐性があってもおかしくはない。

 しかし、それが妖精族エルフ魔族ディアブロであるならば、食事はするはずだ。

 食欲を示さないという点が、どうにも引っかかる。


 と、そこまで考えたレッドは、改めて子供の容姿を見直した。

 白い髪に、白い肌。

 透明度の高い、緑色の瞳がじっとこちらを見つめている。


調和の緑ウェントス恩恵の瞳アストーガ……?」


 だとすれば、この子供は……。


「キミは、神耶族イルンか?」


 レッドの問いに、子供は相変わらず感情のない目つきでこちらを見ているだけだった。

 沈黙がしばらく続き、レッドは視線を焚き火に戻して、考えを巡らせる。

 例えこの子供が神耶族イルンだったとして、それがなんだというのか?

 神にも等しい能力を持ち、永劫のときを生きる神耶族イルン

 彼らは、選んだ従者に同じ能力を与えられると、グランヴィーナは教えてくれた。

 だが、既に自分の "長過ぎる寿命" を持て余しているレッドにとって、不老不死などなんの魅力もない。

 むしろ、煩わしいだけの力だ。

 結局、レッドにとってそれは何の価値もない事柄だった。

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