2.出会い【1】

 流れの冒険者アドベンチャーになり、旅から旅の生活を送るものは少なくない。

 特に幻獣族ファンタズマの討伐で一攫千金を狙うものは、常に新たな情報を求めて移動を続けなければ、大物に巡り会うことは難しい。

 だが、レッドはそのような大物狙いの冒険者アドベンチャーを装っているだけで、実際には旅に明確な目的はなかった。


 そもそも目立って高名になれば、自分の秘密が暴露される危険がある。

 そのため、地味な仕事を選び、使うじゅつも偏らせて平凡を装っていた。


 時には、そうした擬態に疲れ、意味もなく山の中を彷徨さまようこともある。

 人間リオンの十倍の寿命と能力値ステータスを持つ身でも、本気になれば死を選ぶことはできる。

 だが、グランヴィーナの献身とラトゥフからの信頼を裏切ることはしたくない。

 寿命が尽きるその時まで努力を怠らずに生きる。

 それが彼らへの誠実さだとレッドは考えていた。


 しかし、真の友を作ることもできず、上辺だけの冒険者アドベンチャー同士の付き合いを繰り返す生活に、今は疲れ果てている。

 レッドは人間リオンの目から逃れるように深い森に入り、意味も無く歩みを進めていた。


「……ほんと、何してるんだか」


 呟きながら、レッドは鬱蒼と茂る木々をかき分ける。

 人間リオンが踏み込むには危険過ぎる、魔気ガルドレートが霧となって目に見えるほど濃厚な森を彷徨さまようこと数日。

 日暮れを感じたレッドは、夜を過ごす場所を求めて歩いていた。

 道なき道を進むと、不意に開けた場所に出た。

 目の前には、ぽっかりと口を開けた洞窟がある。

 周囲には生物の気配もなく、森の奥にこれほど都合の良い場所があるのは珍しかった。


「ここなら雨露もしのげそうだな……」


 レッドは安堵の息を漏らし、洞窟へと足を踏み入れようとした。

 だがその時、洞窟の奥から小さな音がして、何かの気配がこちらに向かってくる。

 思わず身構えて、レッドは息を詰めた。

 しかし、洞窟の奥から現れたのは、レッドの予想に反した小さなシルエットだった。


「子供…?」


 一見すると、それは人間リオンの子供のような姿形をしているが。

 グランヴィーナから受け継いだ見鬼眼フォルセティが、子供から感じる違和感を告げる。

 見たこともない、魂魄ヴェッテイルの色。

 濃密で複雑な色彩は、レッドの知るどの種族とも一致しない。


「先客がいるとは知らなかった。今夜は雨になりそうだ。軒先・・を貸してもらえるかい?」


 レッドが声を掛けると、子供は無言のまま、フイッと目をそらして洞窟の奥へと歩き去った。

 敵意はないようだが、警戒しているのかもしれない。

 しばらく洞窟の入り口で様子を見たが、特になんの反応もないので、レッドは洞窟の中へと足を踏み入れた。

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