第11話 退院

「おい女、俺の服を出せ、ついでに俺の武器もよこせ」

 ライカはスタスタ受付まで行くと、ナースのお姉さんに話しかける。

「え、ライカさん!? 目覚めたんですか!?」

 ナースは驚きながら足早に受付から出てくる。お姉さんはライカの後頭部を無理矢理背伸びして見る。

「あ? おいやめろ触んな」

「待ってください、あの後頭部の怪我はそんなすぐに治るものでは……!!」

 ナースは嫌がるライカの髪をかけ分けて傷を見る。

「無くなってる……傷が全く……」

 ナースは心底驚いたように言葉を震わす。

「あ? そういや目覚めてから全く痛くねぇな……」

 ライカはナースの手を振り払いながら後ずさる。

 ……どうせあいつだろ……。

「何が心当たりありませんか? こんなことできる人なかなかいませんよ」

「あー、そういや目覚めた時、あの女が俺の頭触ってたな」

 ほら、そうじゃねぇか。

「あの女……? てことはメアリーさんですか?」

「あーそんな名前」

 ナースは感心したような納得したようなため息を微笑みながら吐く。

「はぁ〜〜、このレベルの治癒魔法を医療従事者でもない人が使えるなんて……こんなの、治癒魔法を専攻してる人ができるレベルですよ」

 じゃあもう医者になれよメアリー、ホントに魔法でできないことないんだな!?

「んなことどーでもいんだよ! さっさと俺の持ちモン持ってこい!」

 ライカはナースに踏み寄りながら怒鳴る。ナースは手を胸元で振りながら後ずさる。

「ま、待ってください! ライカさんに武器を渡すのは禁止されてます!」

「なんだとぉ……?」

「当たり前だろ、お前は山賊ていう認知なんだからな、そんなお前に武器なんか渡したら何しでかすか、たまったモンじゃねぇんだろ」

「クッソが……」

 当然の対応だ、俺もその方がありたがたい。武器渡したら殺しに来そうだし。

「んーじゃナースさん、服だけはどうですか? 武器はそっちで保管してもらって」

「え?」

 ナースさんは突然の声に驚く。一瞬固まった後、メイトということを理解する。

「あ、あぁメイトさんもいたんですか……」

「いたんだなコレが」

 ライカは俺の位置を完全に理解してる感じだ。チラチラこっち見てくるし。しかし一般人には全く分からないらしい。

「服だけ、ですか……しかし医院長の命令で渡すなと……」

「じゃその医院長連れてこい、俺がぶっ殺してやる」

「お前殺す以外の関わり方知らないの!? なんですぐ殺すんだよ! まだ話し合ってないじゃないか!」

「ほ、ほら! やっぱり野蛮人です!! 服も何も渡せません、ベットに戻って大人しく寝ててください!」

 ナースはシッシッと手を振って俺たちを追い払う。

「待ってください!」

 俺は最後の切り札、"アレ"を場に召喚する。

「このライカは、"あの"メアリーに許可されてます! 彼が何かしようとしたとき、メアリーが必ず止めれます!」

「なっ!? "あの"メアリーさんが……!?」

「そう! "あの"メアリーさんが!!」

 ふふふ、"あの"メアリー先輩の強さを理解している人ならこの安心感を理解できるだろう。

 ナースの頬に汗が一粒伝う。俺はこっそり固唾を飲む。

「……分かりました……"あの"メアリーさんが言うなら、従います」

「ありがとうございます!」

 完全に、『メアリー>他の人間』の構図できている。これは困った時にメアリーの名前出せば大体どうにかなりそうだな。他人の名前を勝手に使うのはどうかと思うが、まぁいいや。

「ライカさん、絶対何もしないでくださいね」

「しねぇつってんだろ(言ってない)。そも俺は武器なんかなくても人は殺せんだよ」

 さっき爪さえあれば殺せるとか言ってたし、メアリーの見込み通り、戦闘能力がやっぱ高いのか……。

「だからすぐ脅すようなこと言うなって。すみません、嘘ですからねこいつが勝手にイキってるだけですから」

 俺がライカに小声で注意しつつナースさんを微笑みながら落ち着かせる。

「あ? 嘘じゃねぇ――」

「バッカもうバカ、今そんなこと言ってどうなる?服も帰ってこないぞ」

 俺が言うとライカはハッとし、ナースさんを見る。

「まぁ嘘なんだがですがな、さっさと俺の服持ってきやがれですますブス」

 ライカはメアリーから覚えたての敬語を駆使してナースに話しかける。

 おい最後サラッとチクチク言葉言うな、ブスじゃないだろ比較的可愛い方だろナースさん。

「……」

 ナースはライカの変わりように戸惑いつつも、カウンターの後ろの扉に入って行き、数分後、服を持って出てきた。

「どうぞ、あなたがここに入った時に着ていた服全部です」

 ライカは差し出されたものを奪い取ると、バサっとすごい速さで病院服を脱ぎ捨てる。格好はパンツ一丁になる。

「ぎゃぁぁぁぁ!!」

 ナースは突然脱いだライカに驚き、頬を紅潮させる。

「バッカお前なんでここで着替えるんだよ! 女の子の前だろ!」

「あ? 知らねぇよ、野生じゃ女も男も関係なかった」

「ここは野生じゃねぇ!! 病院だろ!」

「じゃ見なけりゃいいじゃねぇか」

 ライカはそういいながら、唯一の布であるパンツに手をかけた。

 ……!! パンツも病院指定のものか!!

「ナースさん!! 見ちゃダメだ!!」

 俺は魔法でライカの動きを止めるよりも手が動き、ナースさんの目を塞ぐ。

「きゃぁぁぁぁぁ!! 触らないで!!」

 あ、俺透明だから意味ないや。

 しかもいきなり抱きつかれたようなものだったらしく、ナースさんは俺の手を引き剥がそうとする。

 その時、ナースは目を開けた。視線の先には裸になったライカが立っていた。さらに視線は下にいき、ライカの立派なライカを完全に視界に捉えた。

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」

 ナースは変な声を出して、さらに力強く俺の手を振り払おうとする。その時俺の足とナースさんの足が引っかかり、ずっこけた。

「お、おわっ!?」

 俺はナースに手を掴まれままで、俺もそのままこける。

「いったぁ……」

 俺は床に手を着いて体を起こす。しかし、認識が誤っていたようだ。

 ん? なんだこの豊満で柔軟な感触は……。

 よく見ると、俺が手を着いた場所は床ではなく、ナースさんの豊満な胸、つまりおっぱいだった。

 ナースさんは掴まれていた場所を理解すると、さらに顔を赤くし、涙目になる。

 Oh……よくある展開キタコレ、じゃない!!

「す、すすすすすすみません!!!!」

 俺は人生最大のスピードで腕を引っ込める。が、運悪く、服のフックの部分が引っかかってしまったらしい。

 ハラリ……と、ナースの胸元がはだけた。なんかエロい黒色のブラが顕になった。

「何やってんだお前」

 後ろからライカの声が聞こえる。振り返ると、未だに裸のライカがこっちを見ていた。

 あのバッカなんでまだ裸なんだよ!!!

 俺はライカには見せまいと、ナースに覆い被さり体で隠そうとする。目の前には恥じらい涙目の女の子がいる。

「……」

「……」

 お互いの呼吸が聞こえる距離、ナースも俺の今やってることに理解して、俺の目を見てくる。

 あ、俺透明だから意味ないか……。

「ぶっは! おい女、なんで胸なんか出してんだ!」

 ライカは裸のままナースを指さして笑う。すると――。

「びえぇぇぇぇぇん!!」

 ナースは我慢の限界で、大声で泣き始める。

「うおあっぱ!! ごめんなさい!!!」

 俺はそれで自我を取り戻し、パッとナースから離れる。その時、後ろからドタドタ走る音がする。

 ライカと俺は振り返ると、複数人のナースがこちらに走ってきていた。

「やばっ!! おいライカ服きろ!!」

 俺の声を聞いたライカは何か言いたげだったが従い、自分のパンツを手に取る。しかし間に合わず。

「きゃぁぁぁぁ!!」

「うわぁ!!!!」

「きゃぁぁぁぁ!!」

「君!! なんで裸なの!!??」

 みんな、裸のライカを見た瞬間頬を染めて視線を逸らす。ライカ完全無視してゆっくり自分の服を着ていく。

 俺、このまま息消してたらバレなさそうだな……責任転嫁、俺は空気、俺は空気、俺は無……。

「……!! マリアちゃん大丈夫!?」

 一人のナースが床に倒れたままのナースに近寄る。マリアは泣きながら俺を指した。

「メ、メイト……グスッ……メイトさんに襲われたぁ……」

 一瞬でバレてしまったーー!!

「あ! ご! ごめんなさい!! わざとじゃないんです!! 不可抗力なんです!」

 俺は土下座にて謝る。ナースたちにはメイトが見えないのでその誠意は伝わらない。

「おやおや、どうしたんだい?」

 するとナースたちの後ろから、お爺さんが出てきた。キチンと病院服を身に纏い、いかにもプロである。

 医院長か……?

「このライカって人と、そこにいるメイト! 見えないけど! その二人がマリアちゃんを無理矢理襲ったって!!」

 一人の赤髪ナースがマリアちゃんを抱きしめ、頭を撫でながら言う。

「そうかそうか……」

 おじさんはライカを一瞥した後、俺に近づいてくる。

「どうしてこうなった?」

 その口調は優しかった。

 これなら話が通じる!!

「まず、ライカがここで着替え始めてそれをそこのま、マリアさん? に見せないために目を塞ごうとして、したらそのまま倒れちゃっただけなんです! 胸もたまたまなんかが外れちゃって!」

「そうか」

 おじさんは優しい目で俺を見る。正確には少し俺の顔とは違う位置を見ているがこの時はまったくどうでもよかった。なんかちゃんとしてるおじさんぽいし、分かってくれるぞ。

「お前さっきそこの女のおっぱい揉んでたじゃねぇか、嘘つくなよ」

 いきなり着替え終わったライカが口を挟んできた。

「お前は余計なことを……!! いや違いますからね? 正確には揉んだというより触ったというか、もはや触れたみたいな、なんなら触れたと触れてないの中間でどっちかと聞かれたら触れたと答えるぐらいのレベルで――」

「そうか……」

 おじさんは優しく俺に声をかけると立ち上がり、ライカを見てから再び床に正座する俺を見る。


「君たちは出禁だ、二度とくんなクソガキども」


 そうして、ライカの退院は無事、済んだのだった。

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