第10話 凡人

「ガロおじさーん、手伝いにきたでー」

 俺は村の外れにある一軒の家を訪ねる。実際はもう誰も住んでいないが。

「だからおじさんじゃねぇつってんだろが、クソガキ」

「挨拶から口悪いな」

 屋根の上から顔を出したのは、パッ見四十代後半ぐらいに見える男性だ。作業服を着ていてベルトにはトンカチやら小型ノコギリやらがついている。いわゆる『解体屋』である。

「俺はまだ三十代だ」

「若さを保ちたいならまずそのボサボサの髭を剃れ、話はそれからだ」

 俺が言ってるとおじさんは屋根から飛び降り、俺の前に着地する。

「お前、どこいんの?」

「あんたのマジで目の前だよ、降りる時はハシゴで降りてくれ……じゃないと俺が死ぬ」

 おじさんの身長は俺よりも断然高く、190ぐらいだろうか。

「お前が避けろ。でだ、とりあえず今日から本格的に解体作業始めるから」

「はい、で、何すれば良い?」

「家具出してくれ」

「おっさん今までなにやってたの……?」

「いろいろ調べるとこあんだよ、ほら今すぐやれ」

 この厳ついおじさんは『ガロ』という名前だ。下の名前は別に興味ないしガロと呼ばれるのか良いらしいので聞いてない。

 シャルの落雷事件から一ヶ月ほど経った。

 ハルさんとシャル、メアリーとの話し合いで俺の存在は村人たちに明かすということに決定した。

 と言うことで月一の村人集会にて、壇上でハルさんから俺の存在を明かさせた。

 最初は皆んな、

「ざっけんな!」

「そんな素性がわかんない奴置いとけれるか!」

「出ていけー!」

「殺せー!」

「せー!」

「セッ!」

と、これでもかと言わんばかりに攻め立てられた俺だが、メアリーの、

「大丈夫です」

の一言で決着。誰もメアリーには逆らえず渋々承諾した。実際は『もし俺が何がやったらメアリーが対処してマルマロン家が責任を取る。』と言うことになった。

「じゃとりあえず運んじゃいますね」

 俺は地面に座り、顎に手をやる。ガロおじさんはポッケからタバコを取り出し吸い始める。

 確か木製テーブルが中央に左の壁奥タンス左手に食器棚天井に電気椅子が四つ――――。

 俺は思い出せる限りの家の中の風景を頭に浮かべる。と、同時にライカを殴打させたときにやった、魔法の透明人間も想像する。

 筋肉と関節、それらを全てに気を配りつつそいつを動かして机を持たせて運ばせる。

 その一連の流れを脳内で考えれば、魔法はできる。

 すると、扉から机が一人でに浮かびながら出てきた。ガロおじさんはぷはぁーーと煙を吐く。

「……便利だな魔法わよ、お陰で五人でやってた作業もお前さん一人でできちまう……生意気なガキだがありがとな」

「なんだよ急に、別に俺は魔法の練習でやってんだよ。感謝なんていらん」

 机は人間に運ばれているような挙動で空中を移動して、俺たちの前に置いた。

「お前が運んでるんじゃないよな、完全に人が運んでるみたいだ。すごいな魔法ってのは」

「まぁ、普通はもっと早く動かせたり浮かしたりできるんだけど、俺はちょっとやり方が違うからできないんだよ」

 前にメアリーに聞いたんだが、「わざわざ人を考えてから動かす魔法使うなんてそんなめんどくさいことする人いない」とか言われた。

 やはり俺は、前世の常識的な概念が脳にこびりついてるから、魔法が使いにくいんだと思う。

 物は浮かない、人が持ってるんなら浮く、なら人に持って貰えば良い、その人がいる程で魔法を考えれば良い。

 他もそうだ。草は勝手に動かない、風があれば動く。なら風があると想定して考えれば良い。

 と言うように、俺は前世の常識的な現象を挟まなければ魔法は使えないことが、この一ヶ月で分かった。

「でも、一つずつなら俺もやるかぁ」

 ガロおじさんはタバコを地面に捨てて火を足で消しながら呟いた。

「あ? 言っただろ、俺は魔法の練習で来たんだ」

「あ? そう言っても俺もなるべく早く終わらせたいんだよ、働いてねぇガキにはわかんねぇかな〜」

「だから俺もなるべく早くやってんだよ、黙って見てろ社畜おっさん」

 バゴン、と片手で頭を殴られる俺。

「クソガキが……さて、やりますか〜」

 ガロおじさんは腕を回しながら家に入ろうとする。次の瞬間。

「ん……うお!」

 家からタンスから棚、椅子、ベットまでほぼ全ての家具が一斉に出てくる。

「な、なんじやこりゃ……! おいガキ! お前がやってんのかこれ!」

 ガロおじさんは驚きながらどんどん出てくる家具を指して聞いてくる。

「それ以外ある? そこ邪魔だからどいたどいた」

 俺がやっている練習は、複数人の同時操作だ。単体を動かすことは、一ヶ月でだいぶできるようになった。

 こいつらは目的、今回で言うところの机を運ぶ、それだけの為の俺が作り出したものだから人間の実体は存在しない、よって狭くても全然いける。一人じゃ持てなさそうな大きい物でもその分人増やせば良いだけだから楽。

「ほい、全部出したよ」

 俺は尻についた土を払いながら立ち上がる。ガロおじさんは関心しながら家の中を見た後、俺に近づく。

「すごいな、数分で全部外に出せるなんて」

 ガロおじさんはそう言いながら笑って俺の頭を撫でてくる。その大きく逞しい手をあしらいつつ離れる。

「いいからそういうの、だからおじさんぽいんだよ」

 バゴン、また殴られた。

 お前ー、日本だったらパワハラ通り越して暴行罪で普通に捕まってるぞ。

「ったく、もう今日はいいぞ」

 ガロおじさんは振り返り、家に向かいながら言う。

「あっそ、じゃ帰らせてもらうぜ。なんかあったらまた呼んでくれ」

 ガロおじさんは振り返らずに手を振るだけだった。俺はそのまま村に戻って行った。


――――――――――――――――――――


「あ、ミシェルさーん」

 家までの道を歩いていた時、ふと見えた庭で洗濯物を干していた女性に話しかける。女性は長い金髪の髪を翻しながら振り返った。

 しかし、キョロキョロ俺の声の出どころを探る。俺はテキトーに近くに落ちていた木の枝を上に投げたり回したりして存在をアピールする。

 せめて透明になるものとならないものを任意で選択できたらいいが……持つ物全部勝手に透明になっちゃうんだよな。そこが難点。

 空中でクルクル回る枝で、ミシェルさんが俺に気がつく。

「あ、メイトくん。昨日は付き合ってくれてありがと♡一人でヤルのはどうしても我慢できなかったから……またヤリましょー」

 ミシェルさんは手を振りながら微笑んだ。

「えぇ、やりましょうね……」

 俺は木の棒を振りながら立ち去る。

 ふぅ……好感度作りはコミュ障には荷が重い……。

 メアリーの指示で「日中は村人の手伝いをしまくれ」とのことで、朝起きてから暗くなるまでずっと村人と交流すると言う一ヶ月が流れていた。

 だいぶ村人たちと仲良くなってきた。

 はー、やっぱミシェルさんと話すとなんか俺が卒業したんじゃないかと錯覚できていいな。実際はただの庭の草むしり手伝っただけなんだけど。

 俺の童貞は未だ健在であった。そも透明になってから何故か性欲がなくなってしまった。

 "そういう"ことを思わないわけじゃない、実際ミシェルさんは巨乳だし、草むしり中に胸チラしまくって見まくって、「え、エロい……ごくり」なんてことになってたけど、俺の俺はモナ・リザ見た時の吉良吉影状態にはならないし、そう思うだけだった。

 俺は歩きながらしょーもないことを考えている。

 もしかしたら、マジで一生卒業できないのでは…々。

「勘弁してくれ…々透明人間とエロはセットみたいなもんだろ……それがなきゃ何のための透明だよもう」

 透明人間の子孫は必要ないってことですか、女神様……。

 俺はまたいるのかも分からない存在に文句を言った。


――――――――――――――――――――


 俺はメアリーからの「明るいうちは帰宅禁止」という鬼畜すぎる命令があるので、仕方なく家の横の迂回して、家の裏側に回る。

「さてどうなったかな〜」

 裏庭には木の棒が二本立てられており、その先は二本に枝分かれしている。それに良い感じに枝を乗せ、落ちないようにしてある、一言で言えば、『物干し竿』。

 言い回す必要性皆無なんだけど……。

 ちなみに俺が一人で作った物である。

 俺は柵を跨いで裏庭に入り、近寄る。

「うわぁ……これは酷い……」

 それに干されているのは俺の衣服。ここは俺専用の物干し竿である。

「やっぱ難しいな、見ない場所で物を動かすってのは」

 俺はガロおじさんを手伝っている時も、ミシェルさんと話して自己満足感を得てる時も、ずっと魔法の練習をしていた。

 遠く離れた見えない場所で魔法を使う。

 メアリー曰く、魔法は離れれば離れるほど難しくなるらしい。

 俺は練習としてまず洗濯物を綺麗に干す、ということをしていた。

「あーあー、シワになってるよコレ…々結局最後は俺がこの手でやんないといけないんだよ」

 俺は干された洗濯物を竿から取り、バッサバッサしてシワを取ってから掛け直す。

「ふぅ……さて、今日は誰か困ってないかなぁ〜、もう一回ミシェルさんのとこで悦に浸ろうかな…々」

 俺は全部の洗濯物を綺麗に掛け直してから、少し止まる。

 今のままじゃダメだ……。メアリーはもっと遠く離れてても魔法は使えるし、見なくても正確で予備動作も短くて俺より断然強い魔法を使える。

「勝てない……これじゃメアリーに勝てねぇ……」

 この一ヶ月間、毎日メアリーに挑み続けているが、まだメアリーに触れたことすらなく、毎回数分で負ける。

「正直メアリーに魔法で勝てない、上から攻めても下から攻めても必ず防がれる。身体強化魔法で透明人間の攻撃も避けられる、透明なのになんで触られる前に分かるのか聞いても、神経伝達速度を極限まで強化すれば触れられる前に肌で感じれるとか言うし、火風水土とか自然魔法どれ取っても最高レベルだし……まぁ実際そのレベルは一度も打たれたことないけど、打たれたら死ぬし」

 俺はブツブツお得意の独り言をしながら、丸太の椅子に座る。

「攻撃防御強化なんでもできるーマンにもともと魔法で挑むのは間違いだった。ならどうする? 今やってる複数透明人間で数の暴力アタックか? それでも単純な防御魔法で肉体的な攻撃は簡単に防がれるし、数が多くても意味ないだろうな――」

 俺は背もたれに寄りかかり、項垂れる。空はため息が出るほど蒼く綺麗だ。

 ハッと気がつく。

「俺が想定してた異世界じゃなくね!?」

 俺はガバッと椅子から立ち上がる。

「前々から思ってて、いつかできるようになるって思ってたけど、俺って結構凡人じゃね!? なんか俺完全に自然に練習とかやってるけど良いのか!? 異世界ってこんな地道なものなのか!?」

 俺は冷静に心を沈ませながら柵を越えて草をかき分けて道に出る。

「いや分かるよ? ゲームじゃねぇんだ、レベルとかいう概念があるわけじゃねぇ。頑張ることが良いことなのも分かるけど、なんか違う」

 俺はテキトーに歩き出す。

「なんか誰も使えない魔法の一つ二つ使えれば良いんだけど、透明化っつーやつじゃあな? 攻撃向きじゃないし……クソっ! 俺のアイデンティティとはなんだ〜」

 俺は頭をポカポカ殴った後、「あ」と思い出す。

 そういやライカどうなったかな、アレからずっと寝たきりらしいけど。

 ライカとは、俺がシャルを助けるために透明人間でぶん殴った山賊のボスである。もともと俺に因縁があったやつだ。

「あの時全力で殴ったしなぁ……なにより吹っ飛んだ後の後頭部を強打がダメだったらしいし、心配だ」

 俺は踵を返し、村唯一の病院に足を運んだ。


――――――――――――――――――――


「あの、メイトですけど、ライカに会いたいんですけど」

「え……あぁ、分かりました」

 俺は受付のナースさんに話しかけて許諾をもらい、病室に向かう。病院は木製で歩くと床が軋む。

 十三室……十三室……お、ここか。

 未だにいきなり話しかけると驚かれてしまうのが少し罪悪感がある。

 俺は案内された番号の部屋に入る。

 扉を開けた瞬間、風が吹いた。カーテンが揺らめき輝く。そしてベットにはライカがいた。しかもその体を起こしていた。

 それだけでも驚いたが、最もの原因は、その隣に座ってた人だ。

「メアリー、お前なにやってんだ?」

 靡く白髪を抑えながら振り返るメアリーは、突如開いた扉と俺の声で安堵する。

「あなたでしたか……いえ、少々彼と話していて」

「ほーん、お前目覚めたのか」

 俺は未だに鼻に包帯をグルグルに巻いたライカに話しかける。ライカはギロっと俺を睨む。

「あ〜? てめぇよく俺の目の前に顔出せたなぁ〜? 俺が殺さないでやって――――」

「ライカ」

 ライカが何が言おうとした時、メアリーが口を挟む。

「――あ、はい……すみません」

 ライカはメアリーの瞳を見た後、小声で謝罪した。

「え? なにやってんのこの人は」

「あ? てめぇ舐めてんのか?」

「ライカ」

「すみません」

 え? 何これどうなってんのこれ。メアリー、ライカのこと飼い慣らしてない?

「今、彼の話を聞いていたんです」

「あーなるへそ、でなんでこんなビクビクしてんの?」

 俺はメアリーに話しかけられると分かりやすく空気みたいになるライカを指して聞く。

「彼が話そうとしないので、実力行使です。まぁ後遺症は残らないので問題ないかと」

 メアリーが後遺症って言ったあたりでライカは肩を跳ねさせる。

「お前何したんだよ……あのライカが、あのすごい勢いで殺しにかかってきたライカがこんなんなって」

「まぁとりあえず、彼の説明しますね」

 メアリーは俺を無視して先ほどライカから聞いた話を話し始める。

「彼は生まれも名前も分からず、『ライカ』という名前は自分でつけたそうです、生まれてこのかたずっと山賊を続けてたらしいです。残りの二人は森の中で会ったからとりあえず一緒にいたらしいです。なんなら出会ってから六ヶ月ぐらいらしいです」

「あ、そんな浅い仲なんだ……なんかもう子供の頃から三人でやってきたみたいな仲だと思ってたわ」

「名前も分かんないそうです」

 それは流石にどうなのだろう……。

「ふん、どうせ捨て駒として一緒にやってただけだ。すぐ切り捨てるつもりだったやつらだ」

「山賊もいろいろ大変なんだな」

「あ? 気安く話しかけんな透明人間、卑怯な技使いやがって、透明とか」

 ライカは俺を睨む。フードがないと目が良く見えて怖い。その鋭い目から覗かれる純血色の瞳に間違いなく殺意が感じられる。

 髪は灰色で、ボサボサで肩ぐらいまで放置してある。

 あれ? こいつ意外と……。

「お前意外と男前じゃないか、勿体無い。モテるだろ」

 俺が軽く言うと、ライカは口をあんぐり開ける。

「は? こいつ何言ってんだおい、メアリー……さん」

 ライカは俺を見て話す時は言葉が荒いがメアリーを見た瞬間ボソボソ呟く。

「メイトはこういう人です、我慢しなさい」

「お前なぁ、せっかくこの世にいい容姿で生まれたにも関わらず人を何で不幸にする? せっかくの人生をなんで捨てる? お前なら普通に生きてたら普通にモテるだろ、普通に生きても普通にモテないブスに悪いと思わないのか?」

 俺の純粋な疑問を聞いたライカは意味不明と言わんばかりにメアリーを見ながら口をパクパクさせながら俺を指す。メアリーも俺に懐疑的な視線でジトッと見る。

「分かんないかな? ほら、イケメンって生まれ持った物じゃん? その特権を生かした生き方をなんでしないのかと思ってさ、ブスならそういう生き方もできないから――――」

「あーもういいですちゃんと聞いても分かんないし多分しょうもないことなので」

 メアリーが手を俺に向けて静止する。

「あ、そう」

「ケッ、生き方なんて決めれるかよ、生まれた時から独りの俺に」

 ライカは俯いて言った。その口調はどこか悲しさがあった。

「それよりあなた、この男、メイトを殺したいですか?」

 えぇ、いきなり何言ってんのこの娘は……。

「あ? 当たり前だろ、俺の鼻へし折りやがって……なんなら今すぐにでも……爪があんなら殺せる」

 ライカは自分の爪を見ながら俺を睨む。

「そうですか、ではあなたがこの男に戦い方を教えてください」

「え?」

「あ?」

「ん?」

 ん? ではないでしょメアリーさん……あなたさっきから何を言ってるのですか?

「たたかい、かた?」

 ライカも理解できず片言で聞き返す。メアリーは頷く。

「はい、メイトは絶望的に身体能力が終わってるので、あなたがいろいろ教えてください」

「なぜ俺がそんなことしなきゃなんねぇんだ。それに俺がこいつを殺したいこととなんの関係がねぇ……ですよね?」

「そうだぞ、そも俺は魔法で強くなりたいんだ、身体能力なんかいらん」

 俺はライカに同意する流れで反対する。するとメアリーは俺をジロッと見た。

 すると指で銃みたいな形を作り、俺に向けた。

「……? なに――――」

 バン!! と、メアリーの指先が一瞬光り、衝撃が生まれて俺のデコに当たる。

「いだっ!! ――え、なに!?」

 メアリーは俺に当たったことを確認すると、腕を下ろす。

「これくらいの速度の魔法は最低でも避けて欲しいです」

「いきなり撃つなよ……覚悟とかあるんだよ」

「敵がいちいちあなたの覚悟を待ってくれますか?」

 言い返せない……ぐぬぬ。

「ライカを見たところ、メイトの立っている場所が分かっているそうですね」

 ライカはフッと俺のことを鼻で笑いながら言う。

「まぁな、そいつの声から大体の位置は分かるし、入ってきた時の床の軋みの変化から立ってる場所も分かる」

「それです、その本能的な神経が欲しい」

「あ? これはちょっとやそっとでできるようになるもんじゃねぇ、これは俺の人生で身につけた"感覚"だ。さっきのゴミ魔法も避けれないカスには無理だ……です」

「あなた、彼のことを何も知らないくせによく言いますね」

 メアリーは煽るようにライカを見下す。ライカはメアリーのことを睨み返す。

「……彼は才能の塊です、あなたには殺せませんよ」

「……あぁそう、でも殺せるぞ俺は」

 な、なんかすごいバチバチだなこの人たち。確かにソリが合わなそうな感じはするが。


「メイトがあなたのその"感覚"を習得できたら、ライカあなたに彼を殺す権利をあげます」


 病室は静寂に包まれる。それを理解できるまで些か時間がかかってしまった。

「メアリーさん!? それは流石に鬼畜ですよ!?」

「なに言ってんだお前、殺す権利ってなんだよ……ですか?」

 これにはライカも疑問だったらしくメアリーに聞く。

「今メイトを殺そうとしても私が止めます。あなたは私がいる限り彼を殺すことはできません。だから彼に教えれば私は止めないということです」

「……止めるってなんだ?」

「魔法で」

 ライカとメアリーはギロと睨み合う。

「おい待て、それ俺はどうすりゃいいんだ。習得すれば殺させそうになるなら正直怖くて嫌だぞ」

 俺の言葉にメアリーは真顔で返答する。

「今のあなたには身体能力がない、現状、魔法を伸ばしたところであなたは私に勝てる要素はありません。だから、彼の戦術を学べば、あなたなら分かると思ったんですが……」

「待て待て待て、まずなんでそんな気遣いしてくれるんだ、俺はお前の生徒でもなんでもないぞ」

 するとメアリーは少し顔を俺から背ける。その頬はほんのり紅く染まっていた。

「……これからの人生で、あなたに必要になると思うので……」

「だからなんで俺にそんな気遣い、ライカと話してたって、結局これライカが俺に戦術を教える流れにするためだけの会話だったんだろ?」

「あ? なんだそれ?」

 ライカは俺を見ながらメアリーに聞く。メアリーは瞑目した後、ゆっくり目を開けて答える。

「ライカは絶対普通には戦術を教えてくれない、だから交換条件を持ち込んで、あなたに教える流れにした」

「……あっそ、まぁそんなことだろうと思ったよ。これまでもそうだった、俺のことを道具だと思ってやがる。俺だってなりたくてこうなったわけじゃねぇ、山賊なんて、誰もなりたがらねぇよ。俺にはなんの才能も実績もねぇから、親に捨てられて、こんなことになってんだ――もともと、俺に選択権なんてなかったんだよ――」

 ライカは少しどこか哀しそうに、脚を組んで窓から外を見る。

 なんか意外と悲しい人生歩んでんだな……。うん、評価変えよう。

「あなたのことを勝手に見てたんですが、私が出会ってきた中でも、相当の手練れなんです。その才能を今のまま山賊で終わらせるのは勿体無い」

 メアリーの呟くような言葉にライカは肩を揺らし、目を見開きメアリーを見る。

「あ? え? 才能……?」

「あなたのその戦術がもし野生を生きる上で独学で身につけたものなら、間違いなく才能があります」

 メアリーはライカの目を見て言う。ライカは少し硬直した後。

「ばっ!? なに言ってだ女!?」

 頬を染めて叫んだ。

「お、俺を褒めてもなんもでねぇぞ! おい!」

 ライカは視線を惑わせながら口をパクパクさせる。汗がドバッと出てきて相当焦っている。

 なんか意外と普通の人だな……うん、評価変えよう……。

「おい、話逸れたが結局なんで俺に構うんだよ!」

 俺はメアリーの右肩をガシッと掴みながら聞く。メアリーはビクッと驚き目を見開く。初めて見た顔だった。

「そ、それはその……」

 メアリーは俺が掴んだ肩に触り、同時に俺の手に触る、その瞬間ビクッと手を戻す。俺はとりあえず肩から手を離す。

 その顔は、白い頬に染まる朱色が綺麗だった。俺に触れた手を見ながら俯く。

「その…………」

 その様子を見ていたライカはガクガク顎を痙攣させて俺とメアリーを交互に見る。

「ま、まさかお前……そいつが――――!?」

 ? 何言ってんのこの男は……ちょっとよく分からんがなんか驚いてるし、俺が理解できないだけなのか?

「てめぇぶっ殺してやる」

「いきなりなんでそうなるんだよ!」

 するとガタッといきなりメアリーは椅子から立ち上がる。そのまま俯きつつスタスタ歩く。

「……あの、私もう行きますね。ライカ、そう言うことなので彼に教えてくださいね」

 メアリーはそう早口で言った後、扉を開けて出て行ってしまった。

「……は!? なんであいつ逃げたの? 何から逃げたの?」

 あの挙動、完全に逃げたのは分かるが理由が分からん。俺が理由を聞いたのがダメだったのだろうか……しかしただ理解を言うだけだろうに、何がいけなかったんだ……。

「お前、マジでわかんねぇのか?」

「分からん、もしかしてトイレとかか……? 女の子だし、わざわざ言うのも恥ずかしかったとか……」

 俺は顎に手をやり考察する。

「もうお前死ねよ」

「なんでそうなるんだよだから……」

 なぜライカは怒っているのかも全く分からん。

「もういいぜお前、俺が殺してやるよ、今から教えてやる」

「え……?」

 ライカはベットから降りる。裸足で病院特有の薄い服をゆらゆら揺らしなが歩く。

「外に出ろ、死ぬまで叩き込んでやる、俺の戦い方を」

「えぇ……いきなりだし死んじゃダメだろ」

「ウルセェ、ぶっ殺すぞ」

「なんでだよ……」

 そうして、勝手に病院を出るライカの後を、俺は急いで着いて行った――――。

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