第三話『解放サレシモノ』


 多摩川河川敷かせんじき

 野宿生活者ホームレスたちのつどい。

 

 だだっ広い河原に座り込む熟練ホームレスの男が、とある疑念を漏らす。

「あいつと、あいつと、あいつとあいつとあいつと……あいつも、なぁんだか俺たちとは違うんだよなぁ。あいつら、とんでもねぇ豪雨の後で、気づいたらここにみついてやがったが……なんというか、しんのホームレスじゃねぇっつぅか……。だってさぁ、あれ、俺のダンボールと比べてみぃよ。ありゃもう家だぜ? 豪邸だぜ? きちんとかっちりしたコンクリの壁に囲まれてやがる。近寄ってもニオイがしねぇし、こないだは、びびあん? とかいう小洒落こじゃれた土星みてぇなのがついたネックレスをしてやがった。ありゃ、どう考えてもカネ、持ってるね。あやしい。そう思わんか? 若いの」


「いやぁ、兄貴アニキ。俺、見てしまいました。奴らがしょっちゅう町に出るものだから、つけてみたんすよ。まずあの美人ホームレスは、中年男と、会ってちゃ、しばいてました。で、カネを受け取ってたんすわ。でですよ? そのカネがどこから出てきたか。それは茶封筒ではなく……ポチ袋です。わけわからん女児向け格闘女戦士アニメの絵柄の、ポチ袋。で、話はここからです。ポチ袋って、絵柄が白抜きになっている名前を書く部分、あるじゃないすか。そこにですよ、"みそら"って書いてたんすわ。つまりこうです。その中年男、絶対アレ、娘のお年玉をあの美人に、流してるんすわ。いやぁ、ひどいもんすよねぇ。子供から預かったお年玉を"パパ活"の資金にてるだなんて……クソ親ですよ。あとアレです、あの小綺麗な男も同じように、主婦っぽいのから、やっぱり子の名前入りのポチ袋を受け取ってたんすわ。他のやつも同じっす。あのソース顔男も、あの外人風の女も、あの女だか男だかわからんやけに顔面の整ったやつも、みーんな、あの豪邸の中にいるのは全部、子供に間接的に窃盗をはたらく。まじやばいっす」

 熟練ホームレスの隣に座る若者ホームレスが、そう告げ口した。


「ほぉ。豚カツだか牛カツだか知らんが……私欲のために子供の夢を奪うとは、けしからん。それにあのニセホームレスども、悪党のくせに、皆揃ってやけに器量きりょうがいいのも、気に食わんな」


 熟練ホームレスと若者ホームレスは、河原の風に吹かれながら、安物の煙草カラメルに火をつけた。

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