第3話「修復の糸口」

涼太は部屋の机に座り、ノートパソコンを開いた。就職説明会で見た企業について調べながら、次にどんな行動を取るべきかを考える。過去の自分ならこのまま何もしなかっただろう。しかし、今の涼太は違う。


「次は、行動だ。」


気合を入れたその時、スマートフォンが鳴った。画面に表示された名前を見て、涼太は少し驚いた。「山本圭介」。大学時代の親友で、10年前は頻繁に連絡を取り合っていたが、現在の涼太の人生では完全に疎遠になっていた人物だ。


「なんで……圭介から?」


疑問を抱きつつ、涼太は通話ボタンを押した。


「おお、涼太! 久しぶり! 元気してるか?」


圭介の明るい声が耳に飛び込んできた。久々に聞くその声に懐かしさが込み上げる。


「ああ、元気だよ。どうした、急に?」


「いや、たまたまお前のこと思い出してさ。今度飲みにでも行こうと思って連絡してみた。」


涼太は少し戸惑いながらも、10年前の過去を思い出した。この時期に圭介と会った記憶はない。おそらく、過去の自分が疎遠にしてしまったことで途絶えた関係だったのだろう。


「いいな、行こう。いつがいい?」


「おっ、珍しいな、お前が乗り気とは。じゃあ、明日の夜どうだ?」


こうして、涼太は圭介と再会の約束を取り付けた。



---


次の日の夜、涼太は待ち合わせ場所の居酒屋に向かった。扉を開けると、圭介が笑顔で手を振っていた。


「おお、涼太! 相変わらずだな。」


「圭介、お前は変わらないな。元気そうで何よりだ。」


二人は席に着き、久しぶりの再会を祝して乾杯した。話題は自然と学生時代の思い出へと移り、笑い声が絶えなかった。


だが、ふとした瞬間、圭介が真剣な表情になった。


「なあ、涼太。実は……お前に謝りたいことがあるんだ。」


「え?」


「俺、お前にちゃんと相談に乗ってやれなかったこと、後悔してる。就職のことで悩んでた時、俺は自分のことで精一杯でさ。お前の話、ちゃんと聞いてやれなかったよな。」


涼太は驚いた。この再会が、過去にはなかった圭介の謝罪を生んだのだ。


「いや、そんなこと気にしてないよ。むしろ、俺の方こそ勝手に距離を置いて悪かった。」


二人は互いに胸の内を明かしながら、過去のわだかまりを少しずつ解きほぐしていった。そして、涼太はふと思いついた。


「なあ、圭介。お前、今何やってるんだ?」


「俺か? 今はIT系のスタートアップで働いてるよ。忙しいけど、やりがいがある。」


その言葉に涼太は目を見開いた。説明会で興味を持った企業と同じ業界だ。


「それ、どんな仕事なんだ?」


圭介の話を聞いているうちに、涼太は自然とその仕事に惹かれていった。そして、ふと圭介が提案した。


「よかったら、うちの会社に見学に来るか? 涼太なら、向いてると思うぞ。」


「本当か? それ、ぜひ頼む!」


こうして、涼太は思わぬ形で新しいチャンスを手にすることとなった。



---


居酒屋を出る頃には、二人の間のわだかまりはすっかり解けていた。


「ありがとうな、圭介。お前のおかげで、何か新しい一歩が踏み出せそうだ。」


「お前が本気なら、俺も全力で応援するさ。」


涼太は、過去をやり直す中で、ただ過去の選択を変えるだけでなく、人との関係を修復することの大切さを実感していた。



---


その夜、涼太は改めて未来に向けた決意を固めた。


「過去を変えるだけじゃダメだ。未来を作るために、俺はもっと動かないと。」


やり直しの人生は、少しずつ新たな形を見せ始めていた。

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