第2話「最初の一歩」
駅前の喧騒の中、涼太は少し早めに待ち合わせ場所に到着した。10年前のこの街並みは、今の彼にとって懐かしくもあり、不思議な感覚を覚えさせた。スマートフォンを手にし、真奈美からのメッセージを確認する。
「あと5分で着くね!」
スクリーンに表示された彼女のメッセージを見て、涼太は胸の奥がざわつくのを感じた。10年前、真奈美とは些細な誤解が原因で疎遠になり、最後には連絡すら取れなくなった。だが、今、彼女は目の前に現れる。そして、涼太は彼女とやり直す機会を手にしているのだ。
「あの頃の俺と違う選択ができるか……」
自分自身への問いかけを終えると、目の前に真奈美が姿を現した。真奈美は白いブラウスに明るい色のスカートを身にまとい、笑顔を浮かべながら駆け寄ってきた。
「涼太、お待たせ!」
その声を聞いた瞬間、涼太は10年ぶりに感じる懐かしさに胸が締め付けられるようだった。
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就職説明会が開かれる会場までは、二人で電車に乗り込んだ。車内では軽い世間話が続く。真奈美は涼太の目を見て、「なんだか、今日はちょっと違うね」と言った。
「違うって、何が?」
「なんていうか……いつもはどっちつかずというか、はっきりしない感じなのに、今日はちゃんと来てくれてるし、なんだか頼もしい感じがする。」
真奈美の言葉に涼太は思わず苦笑いを浮かべた。確かに、過去の自分は優柔不断で、その場の空気に流されることが多かった。だが、今は違う。もう一度やり直すと決めたからには、迷わず行動する覚悟がある。
「そうかもな。俺、ちょっと変わったのかもしれない。」
その言葉に真奈美は少し驚いた表情を浮かべたが、特に追及することはなかった。
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会場に到着すると、涼太と真奈美はそれぞれ別の企業のブースを回ることにした。涼太が最初に訪れたのは、10年前に見送ったある企業の説明会だった。その企業は成長著しいIT系ベンチャーで、当時の涼太には「安定がない」と感じられたために選ばなかった。しかし、今の彼は知っている。その企業はこの数年で大きく成長し、業界を牽引する存在になることを。
説明会のブースでは、若手社員が活気に満ちた口調で会社の理念や将来のビジョンを語っていた。その情熱に涼太は圧倒されると同時に、自分もこんな場所で働きたいという強い気持ちが芽生えた。
「この企業に挑戦してみるか……」
そう決意した瞬間、涼太の中で何かが確かに変わった。未来を変えるための第一歩を踏み出した感覚だった。
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説明会が終わり、涼太と真奈美は帰り道を歩いていた。真奈美は今日の体験について興奮気味に話していたが、ふと涼太に向き直った。
「涼太、どうだった? 行ってよかったでしょ?」
「ああ、本当にありがとう。真奈美が誘ってくれなかったら、俺、絶対来てなかった。」
「よかった! 涼太が本気でやる気になってるの、なんか嬉しいな。」
真奈美の笑顔を見た涼太は、改めて彼女の存在の大きさを感じた。彼女との関係もまた、未来を変えるための大切な要素だと気づいたのだ。
「真奈美、これからもよろしくな。」
突然の言葉に真奈美は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに柔らかな笑顔で返した。
「うん、こちらこそ。」
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その夜、涼太は部屋に戻り、今日の出来事を振り返った。小さな一歩だが、確実に前進している感覚があった。
「よし、次はもっと自分を変える選択をしてみよう。」
彼のやり直しの人生は、まだ始まったばかりだった。
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