「世界の終わりと始まり」

ほんわか

第1話「目覚めた朝」

神崎涼太は、暗い部屋の天井をぼんやりと見つめていた。今日も朝が来た。しかし、その朝が特別である理由を、彼はまだ知らない。


昨夜は酒をあおり、疲れ果てて眠りについた。会社を辞めてから3か月が経つが、新しい仕事を見つけることもできず、友人たちとも連絡を絶ったままだ。絶望に満ちた孤独な生活が続いていた。


「何のために生きてるんだろうな……」


ふと、そんな言葉をつぶやく。涼太は目を閉じ、二度寝しようとした。だが、何かが違う。どこかで鳥のさえずりが聞こえる。


「鳥の声……?」


彼の部屋はマンションの10階。こんな都会で鳥の声が聞こえることなんてまずあり得ない。違和感を覚えつつ、涼太はゆっくりと体を起こした。


「……なんだ、これ?」


周囲を見渡した瞬間、涼太は目を疑った。見慣れたはずの部屋ではない。そこには薄い青いカーテンに、白い壁、そしてシンプルな家具が並んでいる。


「夢か……?」


混乱した涼太は手元に置かれたスマートフォンを手に取る。画面には「2015年6月15日」の文字が表示されていた。


「2015年……?」


恐る恐る鏡を覗き込む。そこには10年前の自分が映っていた。まだ希望に満ち、未来を信じていたあの頃の自分だ。


「嘘だろ……俺が……戻ったのか?」


動揺したまま、涼太は部屋を飛び出した。外は懐かしい景色が広がっていた。活気にあふれる通り、耳に馴染みのある音楽。すべてが10年前のままだ。



---


「これって……やり直せるってことなのか?」


涼太の胸の中で、驚きと戸惑いが入り混じる。それと同時に、ふと頭をよぎるのは、あの日の選択だった。10年前、彼は人生の大きな岐路に立たされていた。会社員としての安定を選ぶか、それとも夢を追う道を選ぶか――。


「もし、あの時の選択を変えたら……俺の人生も変わるのか?」


その時、スマートフォンが震えた。ディスプレイには見覚えのある名前が表示されている。「佐々木真奈美」。彼の大学時代からの友人であり、かつて密かに思いを寄せていた女性だった。


「真奈美……?」


涼太は、無意識に通話ボタンを押した。


「おはよう、涼太! 今日の約束、ちゃんと覚えてる?」


彼女の明るい声が耳に飛び込んできた。


「え、約束……?」


「もう、忘れたの? 今日、一緒に就職説明会に行くって言ってたじゃない!」


その言葉を聞いた瞬間、涼太は思い出した。あの日、真奈美と就職説明会に行くか、それとも友人たちと遊びに行くか迷い、結局遊びを選んだ過去の自分。あの選択が、今の自分の人生を大きく変えたのだ。


「……行くよ。説明会に行こう。」


涼太は過去の自分とは違う言葉を選んだ。その言葉を口にした瞬間、彼の胸の中に小さな希望の光が灯ったように感じた。



---


こうして、神崎涼太の「やり直しの人生」が静かに始まった。過去の後悔を抱えながらも、今度こそ、正しい選択をするために。


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