第5話 三人目の犠牲者

 ──死んじゃう、死んじゃう、死んじゃう!


「はあ、ひい、いい、うぇえええ」


 走れ、もっと早く走ってよ私の足! 

 あいつが来る! パパもママも時間稼ぎにしかならなかった!

 いや、いやよ、私は嫌!

 死にたくない、死にたくない!


 ───アアアアア──


「ひいい!!?」


 あいつの声が聞こえる。変わり果てた姿になっても、あいつは私のことを許さなかった。ずっとしつこく追ってきて、ついに家にまで現れた。

 理不尽だ! おかしい、間違ってる!

 もう大丈夫だったはずなのに! 私と愛は見逃してもらえたのに──あの時、私は助かったはずなのに!


「な、なんでこの私がこんな目にっ!」


 そうだ、美亜のせいだ! 全部、あいつが悪いんだ!

 あいつが素直に私の言うことさえ聞いてれば、誰もあんなことには──。

 もつれそうになりながら必死で走っていた道が、気づけば住宅街から田んぼの広がる畦道に変わっている。


「こ、ここを越えれば……!」


 助けてもらえる! この先には、あの駅の近くには陰陽師の事務所がある! 

 そうなったらあいつはもう──。


「えっ」


 ──畦道を照らす街灯の下に、人影が見えた。


「っっ!」


 あいつじゃない、あいつじゃない、あいつじゃない!

 そうだ、こんなところで死ぬとしたら、あの美亜のような価値のないクズだけだ!

 私はこんなところで終わらない! 私は選ばれた人間だ! 

 現にさっきだって、パパもママも死んだけど──私はあいつから逃げられたんだ!

 そうだ、あれはきっと違う。私はきっと大丈──。


 ──ジャリ、ジャリ、ジャリ──。


「ああ、嘘よ──い、いや……いやよぉ……やめてよぉ……こないでよお……あ、ああ……謝るよお……悪かったわよぉ……だ、だから助けて……助けてよおお!」


 ──……ィ……アアアアアアッ!


 ジロっと。長い黒髪の隙間から覗かせた白濁した目で、あいつが私を見る……ゆっくり、あいつが私に手を伸し──。


『待ちなさい』


 あいつの後ろに、和服の女の人がいた──陰陽師? や、やっぱり私はこんなところで終わらない! た、助か──!?


「あガァ!? いあ、痛あああああいいいい!?」


 な、な……私の胸に手、が──。


『もう! 新鮮な肝が台無しになるところじゃない!』


 ……わ……私の心臓……なん、まだ生き……返して、やめ……。


『ほら、もういいわよ』


 ──しわくちゃ……枯れた……手、あいつが私……を、掴──。


「やめ……おねが、ゆるじ──いや……やめ、あ、あああ、アアアアアア!!?」


 い、痛いヨォ、やめ、イダイ、息がデキな──アあ、ぐるジぃ……助ケ……まマ……。

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