第2話


「……非常に申しあげにくいことなのですが」


お医者様がおっしゃる。

健康診断の結果を伝えられにきた私は、目の前が真っ暗になった。



「……ただいま」

「ん。おかえり。どうだった?」


あおくんはテレビを見ながら問うてくる。

きっと、「大丈夫だったよ!」という答えを期待しているのだろう。いや、普通はそうなのかもしれない。


だけど、だけどーー。


「あおくん。私ねーー」



今までで、一番寝付けない日。


あおくんにありのままを伝えたとき、彼の顔は、もう人間ではないかのように、絶望感に満ちていた。


「それくらい、想ってくれるのは嬉しいけど」


お茶を飲みながらぽつり、とこぼす。



あのとき。

私が何も答えないから、彼はテレビを消して、私の方を向いた。


「どうしたの?大丈夫?なんかあった?」


首を傾げて、無垢に問うてくる彼に、なぜか申し訳ないような気持ちでいっぱいになった。

大切にしてくれる彼を、悲しませたくなくて。

大切な彼を、悲しませたくなくて。



「はあ……」


大きなため息をつく。

今も、お医者様の、あの言葉が頭から離れない。ずっと、脳内再生されて、止まない。


「……一ノ瀬由良さん。あなたの余命は、あと一年です」



「由良、おはよう」


いつも通りに振る舞ってくれるけれど、やっぱり優しいあおくんに感謝する。

あれは夢だったんだって、そう思えるから。


「…うん、おはよう」


だけど、診断書が目に入り、私は再び目を瞑る。

違う、あれは悪夢なんかじゃないーー現実なんだーー。


「由良」


優しい声が耳を掠める。おそるおそる目を見開くと、いつも通り、穏やかな笑みをたたえたあおくんがいた。


「由良、今日もお仕事頑張れ」

「…ありがとう。あおくんもね」


ああ、私の大切な人は、なぜこんなにも優しいのだろう。


自室に戻り着替え終わった私は、化粧が崩れるのも厭わずに、声を抑えて泣いた。



「由良、大丈夫?なんか顔色悪いけど」

「香奈ちゃん…うん、大丈夫だよ」


彼女まで、悲しませたくない。


こんな彼女でも、高校生のときは、最初なかなか縮まらなかったあおくんとの仲に頭を悩ませていた私の背中を押してくれた大事な友人だ。色々な相談に乗ってくれた。


一度あおくんの絶望した表情を見ると、もうあんなのは見たくない、と思う。

そして、香奈ちゃんにもあんな表情はしてほしくない。


この事実を知るのは、両親と、あおくんだけでいい。


私は、彼女に秘密を押し通すことに決めた。






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