DIE2話 弓矢の女その3
女子高生の音羽麗良(おとわ・れいら)の部屋で、ガンハンドマン充機(じゅうき)が優雅にコーヒーを飲んでいた。
「コーヒー豆の量はどうかな?」
「うーん。もう少し多めでいいぞ」
彼はコーヒーを飲み干すと、ノートパソコンを開いて依頼人の顔を確かめる。
「それが次のターゲット?」
レイラは彼のパソコンをのぞき込んだ。芸能事務所ABAREグループ社長・阿晴大志郎(あばれ・たいしろう)の顔が映っていた。彼は慌てて写真を削除する。
「おい、勝手に見るなよ」
「だって、あたしもジューキさんの仕事に同行するから、最低でもターゲットは知っておかないと」
彼はため息を吐いて、彼女に冷たい視線を送る。
「あのなぁ。これはデートや遊びじゃなくて、生の危険な仕事なんだ。俺は出来ることなら、君を仕事場に近づけさせたくない」
「それは分かってるよ。逆に、あたしのせいで、ジューキさんが仕事ミスらないようにしたいから……」
「俺は大丈夫。この能力があるからな」
彼は右手をニューナンブに変えた。彼は右手を銃器に変えられ、3~10発の弾丸が撃てる特殊能力者だ。ただし、全ての銃弾を撃ち尽くすと人間の手に戻り、10秒間は銃化できない縛りがあった。
「ちょっとぉ、家の中で撃たないでよ」
「ハハハ。外の鳩でも撃とうかな。レイラ君、窓を開けてくれないか?」
「えー、鳩かわいそー」
彼女は顔をしかめつつも、リビングの窓を開けようとした。すると、強烈な風が、窓のすき間から吹き抜けてきた。
「キャッ!」
ボゴォ!
突風が当たった壁がへこんだ。充機はすぐに異変に気付き、外へ向けて銃を構える。
「レイラ! 壁に背中を引っつけろ! 外から姿が分からないようにするんだ!」
「う、うん!」
彼女は言われたとおりに窓から離れ、壁に背中を引っ付ける。唇をギュッと結んで、物音一つも立てないようにした。彼女の真正面で、ガンハンドマンは腹を床に付けた低姿勢で、外の様子をうかがう。
「風だけで壁に穴が開くワケがない。もしかして、俺と同じ特殊能力者か?」
ビュッ!
再び風が吹き込んできて、壁に2つ目の穴を作った。彼はすぐに左手で窓を閉じて、カーテンを閉めた。
「これなら狙撃できないだろう。しばらく壁に引っ付こう」
「ねぇ。一体、何の能力なの?」
「かまいたちの風のように、人の体を切る能力かもな。幸いなことに、俺の銃と違って連射は出来ないらしい」
2人は深刻な面持ちで、カーテンの方を見る。外の見えざる敵が襲ってくる恐怖で、心臓が早鐘のように鳴っていた。
***
ビルの屋上で、般若の面の女性・矢邊亞弓(やべ・あゆみ)が小さく笑いながら、カーテンが閉まった部屋を見ていた。
「おそらく、壁際に身を潜めているんでしょう」
彼女は半透明な矢をつがえて、狙いを定め始める。
「私の疾風(はやて)の弓矢は、普通の弓矢と違った軌道を描けるというのに。愚かねぇ」
彼女は3度目の疾風の弓矢を放った。矢は野球のスライダーのような軌道を描いて、ガンハンドマンのいる部屋の窓ガラスを割った!
(続く)
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