DIE1話 トラック野郎その3

20××年10月16日午後10時10分 日本 東京 


 レイラは塾の授業が終わり、自転車に乗って帰り始めた。


「うっ、まただ……」


 後ろから誰かの視線を感じる。近くの交番に駆け込むか。いや、ここから近くの交番までは大分距離がある。彼女は自転車を止めて、ストーカーに向かって声を荒げる。


「ずっと、あたしを追っかけてるみたいだけど、用があるなら面と向かって言ったらどう?」


 反応はない。非常に危険な行為と分かっているが、もう本人に会うしかない。朝からのストーキングや落ちてきた小便小僧で、かなりイライラしていた。彼女は自転車を180度回転からの急発進で、角を曲がった。


「やっぱりいたっ!」

「ちょっ、バカ!」


 サングラスの男が慌てふためいている。彼女の目には20代ぐらいの若い男に見えた。ひょろっとした体格で、彼女はただのストーカーと判断した。


「今度、あたしをストーキングしてたら警察に――」

「後ろ、後ろ!」

「えっ?」


 彼女が振り返れば、大型トラックが突っ込もうとしていた。このままでは、ストーカー男もろとも轢かれてしまう。彼女が自転車から下りて脇によけようとすれば、男が62式7.62㎜機関銃を出して、タイヤへ向かって連射した。

 傷ついたタイヤはパンクして、トラックが横転する。間一髪で事故は免れた。


 トラックのドアが開いて、頭から血を流した金髪の男性運転手が出てきた。その男の右手にはマカロフ型拳銃が握られていた。


「クソっ、死ねぇ!」


 彼女は目をつぶったが、グラサン男がすぐにスミス&ウェッソン M500で、運転手の右手、左足首、腹を撃ち抜いた。運転手はドアに前のめりになって倒れる。

 銃声が聞こえないから、サイレンサーを付けているのだろうか? 彼女がグラサン男の右手を見たら、何と右手のそのものが銃になっていた! 改造人間か?


「おい。誰の差し金でやったんだ?」


 サングラス越しに睨みながら、運転手の襟首をつかむ。運転手は唇をかんで無言を貫く。


「もしかして、安喰(あくい)夫妻から頼まれたのか?」


 運転手の目が大きく見開かれる。依頼主の名前が出て、動揺を隠せなかった。グラサン男はニヤッと笑って、銃口を彼の額に突きつけた。


「ビンゴのようだな。まっ、相手が悪かったな」

「たっ、助けてくれ! 俺はあんたのこと――」

「ガンハンドマンは絶対に獲物を逃がさない」


 運転手の額に数発の銃弾が撃ち込まれる。彼の顔は生気を失い、体はアスファルトの道路へ落ちて、ただの屍と化した。


 レイラは目の前で起こった光景が信じられず、何度も激しくまばたきを繰り返す。やはり現実のようだ。彼女はゆっくりと口を開く。


「あっ、ありがとう」


 ガンハンドマンを自称する男は軽く息を吐いてから、彼女を見た。


「井伊田(いいだ)氏の依頼をこなしただけさ。あんたの命を狙う奴を殺してくれってね」

「井伊田さん?」

「遺産を譲るってメールしたそうだぞ?」

「そんなぁ。見ず知らずの人からのお金を上げるってメール、迷惑フォルダーに入れてるから分からないよ」


 大金を受け取れるメールは絶対に詐欺、みんなも気を付けよう!


「そうか……。じゃあ、本人に会ってみるか?」

「えっ?」


 翌日、彼女は男と一緒に井伊田さんに会うことになった。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る