DIE1話 トラック野郎その2

20××年10月16日午前7時10分 日本 東京 


 閑静な住宅街のマンションの一室で、音羽麗良(おとわ・れいら)がTVを見ていた。


「アメリカ大統領候補のサステナ=グリーンヒルズ氏が演説中、何者かによって射殺されました。州警察は犯人を特定できず――」

「銃で暗殺、アメリカって怖いなぁ」


 彼女はそう言ってTVを消して、学校へ向かう準備をする。今日は1時間目の嫌いな数学を乗り切れば、いつもの平和な日常になると思っていた。


「パパ・ママ、行ってきまーす!」


 玄関の靴棚上の両親の写真に声をかけてから、家を出る。廊下に出たら、誰かの視線を感じる。彼女は廊下の端まで見渡したが、誰もいない。


「うん? 気のせいかな」


 自転車に乗っている間も、ずっと誰かに見られている気がした。ストーカーだろうか? 

 それでも、彼女はいつも通りに、通学路の途中のコンビニで、サンドウィッチとおにぎりとタフルドを購入した。朝から嫌なニュースを見てしまったので、神経質になっているに違いない。彼女は自分にそう言い聞かせて、深呼吸。店から出て自転車に乗ろうとすれば――。


「キャッ!!」


 目の前に、小便小僧の銅像が落ちてきたのだ。看板ならいざ知らず、こんな銅像が勝手に落ちてくるはずがない。彼女はビルの屋上に目を移すが、犯人の姿は見つからなかった。


「あたし……、狙われてる?」


 彼女は唇を青くして身震いした。


***


 学校で、レイラは自分が狙われていることを友人達に話した。当然のように大笑いされてしまう。


「レイラ、考えすぎだって!」

「でも、バカでかい銅像が目の前に落ちてきたんだよ! こんな偶然ってある?」

「引っ越し業者が誤って落としたんじゃないの? 銅像コレクターがいるんでしょ」

「それに、レイラを殺して何の得があるの?」

「それはそうだけど……」


 金持ちでも才女でもない、普通の女子高生の彼女が命を狙われる理由は全くない。彼女は窓辺に寄りかかって、何気なく校門の方を見る。サングラスをかけた黒服の男が立っていた。


「いっ、いた!?」

「えっ?」

「どこどこ?」


 彼女が指差した時には、男はどこにもいなかった。


「どこにもいないじゃん!」

「で、でも、確かにグラサン男がいて……」

「疲れてるんじゃない、レイラ?」

「保健室に行く?」


 友人達の優しさが、彼女の身に染みる。ストーカーはともかく、もし殺し屋なら……。彼女は不安で胸が押しつぶされそうだった。


(続く)

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