第29話

『桜、よう覚えておき。

花は散るからこそ美しい

散らぬ花に咲いている意味なんてこれっぽっちも無いってことをーーー




ーーーそしてそれは人も同じ。私達花魁は絶望するからこそ、自由を乞い願い、そして、叶わずに散るからこそ、美しくあるということを。



どうせ叶わないのならば、その美しさで魅了することを覚えなさい。惹きつけて惑わして。それが私達の生き方なのよ』



なんて憎いのだろう




この先きっと私が貴方様と結ばれることはないのでしょう


貴方様はいつか素敵な方と幸せになるのでしょう




「泣き止んだなぁ」




その笑顔をどなたかに向けるのでしょう


その手で触れるのでしょう


その声で愛をささやくのでしょう




私が恋願うことを、その方は手に入れるのですね




それはなんと辛く悲しく、憎いことなのでしょうか





今ならばわかる。夕霧姉様のあの言葉の意味が



どうせ叶わない願ならば願うことをやめて仕舞えばいい

その代わりに




「来光様、お願いがあります」


「ん。どうした?」


「明後日の昼過ぎ、兎胡の川の橋のふもとに来てはいただけないでありんすか?」


「そんなことで良ければいくらでも」


「ありがとうございます」





深く私を刻みつければいい

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