第13話

ふわり


かすかに香ったのは



「桜...?」



甘い桜の香り



「あ、はい。姉様へ。とのことでありんす」



差し出されたのは美しい一本の枝

それを彩るように淡い桃色が咲き誇っていた



貴方様って人は...



先ほどまでとは異なる痛みが胸を襲う





逢いたくて

切なくて

泣きたくて

この痛みすら愛しいと思える





そんな痛み




たった桜の枝一本で、不安も焦りも何もかも吹き飛ばしてくれる





桜が咲くこの時期にしか会えないたった一人の




愛おしいお方





「菊、その手に持っているものをおくれ?」




「はい。とても美しい和紙ですね!!」




薄い桃色の和紙を開くとそこには一文



"満月の日夜桜を愛でに参りましょう"




そうなのですね


次の満月の日、貴方様はいらしてくれるのですね





「ありがと。それと菊、口調が戻っているわ」




しょんぼりと肩を落とす菊の頭を人なでし、この痛みを大事に抱えながら湯浴みへ向かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る