第一章 兄と妹
瑠央は、車内が空いたことを確認してから、列車を降りた。そして、ホームを歩き、改札を通って、駅の東口から外へと出た。
すぐに初夏の日光が、刺すように瑠央を照らしてくる。瑠央は目を細めながら、通行人が行き交っている歩道へと入り、少し歩いたところで、赤信号になっている横断歩道で立ち止まった。
信号を待ちながら、瑠央は自身の心が浮き立っているのを自覚していた。陸上大会のスタートラインに立っている時のような、興奮と楽しみが心臓の鼓動を高鳴らせているのだ。
やがて、信号が青になり、瑠央は横断歩道を渡った。それから、眼前に建っている駅前のイオンモールへと足を踏み入れた。
店に入ると、すぐに喧騒が耳を貫いてくる。土曜日の今日は来客も多く、コンサート会場のような賑わいをみせていた。
瑠央は人混みをかき分けるようにして進み、奥を目指す。目的の場所は、コーヒー専門の喫茶店。
そこで『ある人物』と待ち合わせをしていた。瑠央が心の底から愛する運命の人。
瑠央の心は浮き立っているのはそのせいだ。当然の感情だと思う。最愛の人と久しぶりの再会なのだから。
瑠央は、目的の喫茶店に着き、中へ入った。すぐにコーヒーの香ばしい香りが鼻腔を突く。
店内はシックな内装のデザインで、落ち着いた雰囲気を漂わせていた。現在の時刻が十四時と中途半端な時間であるため、店に人は少ない。
内部を見渡し、待ち合わせの人物がまだきていないことを確認したあとで、瑠央は奥の席に座った。
やってきた女性店員に、ブルーマウンテンコーヒーを注文する。瑠央の注文を確認している最中、女性店員は、どこか見惚れた様子でこちらを見てきていた。
そして、メニューの復唱が終わると同時に、瑠央と目が合う。すると女性店員は、顔を赤らめ、そそくさとこの場を離れていった。
足早に遠ざかる女性店員の背中を見送りながら、瑠央はポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージを確認する。
新着メッセージはなし。列車内でやり取りを最後に途絶えている。既読は付いているので、メッセージは読んだのだろう。
もっとも、このメッセージ類も、時間経過で全て消去されてしまう運命にあるのだが。
瑠央は『到着したよ』とスタンプを添えてメッセージを送った。
すぐに既読が付き、流行のキャラクターを元にした可愛らしいスタンプと共に『私も駅に到着したところ』という返信が届いた。
瑠央はとりあえずほっとする。何かあったわけでもなく、ちゃんと目的地へ向かってきているようだ。しかもすぐ近くらしい。
スマートフォンをポケットに戻したところで、先ほどの女性店員がコーヒーを持って現れた。
女性店員は、芸能人でも前にしたかのような緊張を見せていた。熱い視線を感じる。しかし、すでに女性たちのそのような態度は慣れっこだったので、瑠央は平静のままコーヒーを受け取った。
「ありがとう」
瑠央が青空のごとく爽やかに笑いかけると、二十歳前後を思しき女性店員は、天にも昇るような喜んだ表情をみせた。そして、酔っ払いに似た千鳥足で、バックヤードへと立ち去っていく。
瑠央は笑いを堪えながら、運ばれてきたコーヒーを一口飲む。カップをソーサーに置いた直後、声がかかった。
「ごめんお兄ちゃん。お待たせ」
百合の花のような可愛らしい声。瑠央が顔を上げると、妹の
「待ってないよ。時間はまだ早いし、俺もさっき着いたところ」
テンプレートのような会話を交わしつつ、瑠央は姫奈の姿をじっくりと観察した。
チェックパンツに、上半身はシフォンブラウスとビスチェを合わせた服装である。女子高生らしく、シンプルでありながらキュートな雰囲気を演出していた。
妹が女神のように素敵に見えるのは、服装だけではなく、着ている本人の素質が抜群である要因が大きいからだ。小顔かつ子猫のような愛嬌のある容貌で、ジュニアアイドルでも目指せそうなほど目鼻立ちが整っている。ツーサイドアップに揃えた髪型もお似合いだ。
おそらく、ここにくるまでに、幾度となく、通行人の視線を浴び、ナンパをされてきたに違いない。時間ギリギリなのもそのせいなのだろう。
「どうしたの?」
姫奈は子猫のように、きょとんとした顔で首を傾げる。可愛らしい仕草に、思わず胸が高鳴った。
「なんでもないよ。さあ、座って」
瑠央が向かいの椅子を勧めると、姫奈はそちらには座らず、瑠央の隣に腰掛けてきた。
「私はこっちがいいな。久しぶりに会ったんだもん。できるだけ近くにいたい」
瑠央と姫奈は、お互いに微笑み合った。
どこか不機嫌になった女性店員への姫奈の注文が終わると、瑠央と姫奈は互いに近況報告を行った。
姫奈の話のメインは、高校で所属している演劇部についてだ。今度催される公演会において、メインの役に抜擢されたらしい。入学したばかりの高校一年生という身分でありながら、先輩たちを差し置いて大きな役を勝ち取るのは、部が始まって以来の快挙だという。おそらく、姫奈の群を抜いて美しい容貌と、中学校から行っている演技の実力のお陰だろう。
劇の内容は、シェークスピアの『ハムレット』。父親殺しの物語だ。
「ヒロインの役がぴったりだったからかな」
姫奈は照れながらそう説明する。確かに、劇に登場するオフィーリアは、姫奈の雰囲気にピッタリの女性だ。
続いて、瑠央の話題に移る。瑠央は、受験勉強の話をした。高校三年生に上がり、所属している陸上部も引退が迫っていた。今度、七月末に大阪で開催される陸上大会を最後に、引退し、本格的に受験勉強に入る旨を伝える。
「もったいないよね。お兄ちゃん部活でも大活躍だったじゃん。大学への推薦とかないの?」
運ばれてきたカフェオレを飲みながら、姫奈はそう訊いてくる。
「あるよ。校長先生から打診があったから。けれど、やっぱり親父の意向があるからね」
瑠央の部活における好成績は、陸上で有名な大学の指定校推薦を得ていた。しかし、病院を経営する父の希望により、瑠央は医者への道を歩むことを余儀なくされていた。
「やっぱり医学部受験するんだ」
店内に人が少ないとはいえ、人目も憚らず、姫奈はこちらの肩に身を寄せてくる。瑠央も気にせず、姫奈の肩を抱いた。姫奈の身長は女子の平均くらいだが、瑠央は高身長なので、位置的にちょうど姫奈の顔が瑠央の肩にくる形になる。
瑠央は、姫奈の質問に首肯した。
「うん。あんなことがあったし、せめて親父の願いは叶えてあげたいから」
子供の頃に母親が他界し、一人親として二人を育ててきた父なのだ。親孝行はしてあげたかった。
もっとも、かつて二人が『しでかした』出来事に加え、こうして逢瀬を行っている事実を鑑みれば、その時点で親不孝者と謗られて仕方がないのかもしれないが。
「医学部の大学への推薦はどうなの?」
「それも貰ったよ。公募推薦になるけど多分、合格は問題ないと思う」
瑠央は、推薦を得ている大学の名前を口に出す。日本でも有数の名門大学だ。
「さすがお兄ちゃん。昔からいつも学年で成績ナンバーワンだったもんね」
瑠央は、少し照れて、頬を掻いた。
「まあ、それでも本音を言うと、陸上のほうに進みたかったけどね」
もしも、父親の存在がなければ、陸上への道を歩んでいただろう。監督曰く、瑠央の実力ならば、オリンピック出場や世界大会も夢ではなかったはずだ。
「そうだとしても、やっぱりすごいよ。私のお兄ちゃんは世界一だね」
姫奈は、感極まったように腕に抱きついてくる。同年代の中では大きめであろう胸の感触が、とても心地よい。
瑠央は愛おしくなって、妹の柔らかなツーサイドアップの頭を撫でた。
それから口を開く。
「それはそうとして、お前のほうはどうなんだ? 学校の成績は?」
およそ答えの確信を持ちながらも、瑠央は悪戯半分で質問する。腕に抱きついている姫奈の体が、しまったとでも言うように、少しだけ硬直した様を感じ取った。
「そこ、訊いちゃう?」
姫奈は、子供のように舌を出す。
昔から、妹の成績がいまいちなのは知っていた。一緒に住んでいた時は、瑠央が勉強を教えて何とか及第点以上はキープしていたものの、『別居』に至ったあとは、そうもいかなかった。
「ちゃんと勉強しろよ。成績が悪かったら、お爺ちゃんとおばあちゃんに怒られるだろ?」
姫奈は現在、埼玉県の大宮にある祖父母の家に住んでいた。高校もそこから通える場所にある。
「だって、部活で忙しいんだもん」
「それは言い訳。なんだったら、今からでも勉強教えようか?」
瑠央が冗談めかして言う。姫奈は、にがりでも飲んだかのような渋い顔で首を振った。
「せっかくのデートだもん。勉強なんてしてられないよ」
姫奈は、瑠央の腕に顔をうずめた。勉強についてはさておき、久しぶりに会ったのだ。二人の時間を大事にしたい気持ちは瑠央も同じだった。
「そうだな。大切な時間だもんな。もっと楽しいことをしないとな」
瑠央は、優しく姫奈の背中を撫でた。
そのあと、瑠央と姫奈はコーヒーショップを出た。会計の際、瑠央と仲良く並んでいる姫奈を女性店員が湿った目で見つめてくる。
それを見て瑠央は思う。
この店員は、まさか目の前の仲睦まじい男女が、兄妹だとは露ほども思っていないだろうと。瑠央も姫奈も美形だとよく言われるが、容姿自体はあまり似てはいなかった。
他所から見る事象と現実は、マリアナ海峡ほどの乖離があるのが常なのだ。
二人は店を出た足で、イオンモールの二階へと上った。手を繋ぎ、服屋やアクセサリーショップ見て回る。お互い、話したいことは山ほどあった。色々な話題に切り替えながら、会話が盛り上がっていく。
久しぶりの『デート』は、とても楽しかった。乾いた大地に水が染み渡るかのようで、心が瑞々しく満たされていくのが実感できた。
姫奈も同じ気持ちを抱いているらしく、向日葵のように、可憐な笑顔を振り撒いていた。
やがて、冷やかしのウィンドウショッピングは終わりを迎えた。二人はイオンモールを出ることにする。仲良く手を繋いだまま、入ってきた正面玄関から外へと出た。
イオンモールを出ると、二人は横断歩道を渡り、西新井の駅へと向かう。ここにやってきた時とは反対で、逆走する形だ。
瑠央と姫奈は、そのまま駅へと入り、反対側の西口へと向かった。西口のほうが店舗など色々と栄えているのだ。
本来なら、もっと都心近くで『デート』をしたかったが、この足立区こそが、二人が会うための中間地点として都合が良い場所であった。瑠央の住む千代田区では、どうしても父親や関係者と遭遇するリスクがあるし、姫なの住む大宮でも似たようなものだった。
だからといって、妙に離れた場所だと、どちらかに負担がかかってしまう。必然的に、中間地点のこの場所が選択肢として候補に挙がるのだ。
二人は手を繋いだまま西口から出て、ロータリーを渡ろうする。そこで、誰かが背後から声をかけてきた。声の性質からして、中年女性のものらしい。
「ちょっとごめんなさい。あなたたちカップル? 二人ともモデルみたいに素敵ね」
瑠央と姫奈は同時に振り返る。背後には、小奇麗なスーツを着た中年女性が立っていた。
「あなたは……?」
瑠央は警戒した。もしかすると、父が雇った『監視』かもしれない。周りに大勢人がいる中、わざわざピンポイントで二人に声をかけてきたのだから。
瑠央の表情から警戒心を察したのか、女性は、口に手を当てはっとした顔をする。
「あら、ごめんなさい。私、こういう者です」
女性は懐から名刺を取り出し、こちらに差し出した。覗き込んで見てみると、平凡な名前の横に、変わった社名が記載されていることが確認できる。
「私、品川区にある芸能事務所のマネージャーなんです。あなたたちを見て、声をかけました。お二人の容姿なら、芸能界やモデルでもやっていけると思います。私の事務所にきませんか?」
どうやら芸能事務所のスカウトらしい。つまり、父の関係者ではないということだ。瑠央はほっと胸を撫で下ろす。
「あななたちほどの容姿端麗な人はなかなかいないわ。今ままでも沢山モテてきたでしょうね」
スカウトの女性は、心底感心したように言う。瑠央と姫奈は顔を見合わせた。
確かに、自分も姫奈もとてもモテる人間だ。ラブレターなども数え切れないほど貰ってきた。
だが、自分たちにとって、そんなものは何の価値もなかった。だって、二人にとって、大切なのは、お互いのみなのだから。
瑠央は頭を下げる。
「ごめんなさい。こうして将来を誓い合った大切な人がいるんです。だから、芸能界には入れません」
姫奈と繋いだ手を掲げながら、瑠央はきっぱりと断った。
「恋人と交際していることを隠して活動してもいいのよ。そうしている人、一杯いるわ」
スカウトの女性は食い下がるが、二人の気持ちは変わらない。
瑠央は事実を述べた。
「僕たち、兄妹なんです」
「え?」
女性は目を丸くする。
「兄妹? さっき将来を誓い合ったって……」
「はいそうなんです。僕たちは兄妹で、将来結婚して、家庭を持つつもりなんです。だから、目立つ行動は父に見つかっちゃいます」
そしてもう一度頭を下げると、珍獣でも目撃したかのようにポカンとした表情の女性を残したまま、その場を離れた。
ビルの角を曲がり、女性の姿が見えなくなったところで、瑠央と姫奈は同時に吹き出した。人目も憚らず、笑い合う。
「見た? あの人の顔」
「まさか俺たちが兄妹なんて思ってもいなかっただろうな」
そう。コーヒーショップの店員といい、先ほどのスカウトの中年女性といい、誰も瑠央と姫奈を兄妹とは思っていなかった。
彼女たちだけではない。すれ違う人々も同じのはずだ。二人の容姿に惹かれて目をやる人が多いが、兄妹と勘付く者は皆無だろう。
通常の兄妹は、仲睦まじく手を繋いだり、身を寄せ合ったりはしないのだ。それをやるのは『恋人』同士なのだから。
ましてや、口付けなどは持っての他だろう。
二人はひとしきり笑い合うと、やがて向き合った。お互い、気持ちが昂ぶっていることを実感する。
二人は周りの様子をうかがい、そっとキスを行った。甘い感触。昔から――子供の時から――知っている妹の唇の味。
二人は貪るようにキスを続けた。
それから二人は、ここからすぐの栄町にあるショッピングモールへ向かうことにした。
西新井駅の西口にアクセスしているさくら参道へと入り、交差点を渡ったあと、車道に沿うようにして進む。
ここが駅近くであり、マンションなどが立ち並ぶ住宅街であることもあいまってか、人通りも多かった。家族連れや若いカップルが目立つ。
お喋りしながら歩道を歩いている最中、姫奈が唐突に、一軒の店舗の前で立ち止まった。そこは何の変哲もない不動産会社だった。通行人に向け、ショーウィンド越しにいくつもの物件を提示している。
そのうちの一つに、姫奈は興味を惹かれたらしい。じっと見つめている。展示されている洋服に目を止めた女の子のような反応だ。
「どうした?」
瑠央が訊くと、姫奈はショーウィンドウの一角を指差した。
「この家、素敵だなって思って」
姫奈の指先を追って、示された対象を見てみる。そこには、一軒の家屋が写真付きで紹介されていた。
「これって……」
洋風の白い家。北欧デザインであり、広い窓と、絵本に出てきそうな三角の屋根が特徴的のお洒落な家である。
「その家がどうしたんだ?」
瑠央は質問した。確かに姫奈が言うとおり、素敵な家だが、わざわざ足を止めてまで見るほどの何かがあるとは思えなかった。紹介物件の所在地も東京から遠く、仙台地方の端っこであり、気軽に見にいける場所ではなかった。
仙台の物件が東京の不動産会社に提示されている理由は、おそらく、この会社は全国規模の不動産屋であり、中々売れないあぶれた物件を処理したいため、わざわざ首都圏で紹介を行っているのだろうと思われた。
「私ね、前からこんな家に住むのが夢だったんだ」
「この白い家に?」
瑠央は怪訝に思って、質問する。初耳だったし、意図がよくわからなかった。
「うん。海が見える丘の上に、ぽつんと一軒だけ建っている白い家。そんな場所でお兄ちゃんと一緒に暮らしたいなって」
姫奈の考えがわかり、瑠央は頷いた。
「そういうことね。でも、けっこうベタなシチュエーションじゃないか? ドラマとかでありそうな」
瑠央が茶化すと、姫奈は頬を膨らませた。
「だから素敵なの! もういい。行こう」
姫奈は瑠央の手を引っ張り、強引に歩き出した。このままでは引き相撲になってしまうため、瑠央は仕方なく姫奈に着いていく。
どうやら、少し不機嫌にさせてしまったらしい。瑠央は、己の失着を心の中で悟った。
姫奈は子供のように拗ねたまま、無言で歩く。瑠央はその姫奈に対し、必死になって弁明した。茶化して悪かったことや、姫奈が言及した『白い家』が瑠央にとっても素敵に映ったことなどを述べる。
やがて、目的のショッピングモールが見えてきたところで、姫奈はようやく機嫌を取り戻したようだ。普段通りの明るい振る舞いをみせてくる。
瑠央はほっとしつつ、再び機嫌を損ねたら敵わないので、先ほどの『白い家』のことは、しばらくの間、記憶に留めておこうと誓った。
栄町のショッピングモールで、早めの夕食を済ませたあと、二人は少し離れた所にあるラブホテルを目指した。
本来は、もっと色々楽しみたかったが、あまり遅くなると、父や祖父母から勘付かれる恐れがあるため、帰宅は早めでなければならない。もうあまり時間がないので、本日メインの『イベント』に移ることにする。
ラブホテルに入り、チェックインを行う。瑠央と姫奈は共に高校生であるため、ラブホテルの利用は違法なのだが、ここは受付が無人なので、問題はなかった。
それに、二人とも実年齢より大人びているため、人に目撃されても誤魔化せる可能性のほうが高かった。
姫奈がパネルから部屋を選び、瑠央が料金を支払う。そして、エレベーターで上階へ昇った。他の客とのバッティングを避ける造りであるため、ここまで他者と接触することはなかった。
二人は腕を絡ませて寄り添いながら、廊下を歩く。そして、姫奈が選んだ部屋へと入った。
内部は、ピンクを基調とした可愛らしい部屋だった。ベッドもピンクのハート型で、姫奈の好みを表していた。
瑠央は、部屋に入るなり、姫奈を抱き寄せ、首筋にキスをする。姫奈は震えるように小さく吐息を漏らす。
唇を離し、瑠央は姫奈に言う。
「シャワーを浴びよう」
本心は、そのままの勢いで姫奈をベッドへと誘導し、押し倒したかったが、手順は大切だ。
「うん」
姫奈は頷き、二人で一緒に浴室へ行く。
お互い、じゃれ合いつつ、服を脱がす。すでに瑠央の股間は固く硬直していた。
久しぶりの妹とのセックスだ。楽しみでならなかった。
二人でシャワーを浴びたあと、瑠央は今度こそ、姫奈をベッドへと押し倒した。それから、バスローブをゆっくりと脱がす。
あらわになる姫奈の裸体。シャワーを浴びていた時は、直立の状態だったので、いまいち全貌が確認できなかったが、今では全てが見える。
幼い時から――いや、物心付く前から――知っている姫奈の生まれたままの姿。陶器のような透き通った白い肌に、均衡の取れた肉体。ミロのヴィーナスも顔負けの美しい容姿である。さながら『オフィーリア』や『ベアトリーチェ』とでも形容できる素敵な少女だ。
瑠央は、姫奈に口付けを行った。妹は、甘えるように舌を入れてくる。しばらくの間、二人はお互い舌を絡みつかせた。
妹の舌と口の中を堪能したあと、瑠央は妹の胸元に舌を這わせ始める。妹は、電気に当たられたかのように、小刻みに痙攣した。
妹の反応を確かめながら、徐々に全身へと広げていく。丹念に、妹の全てを欲するように、足の先まで舌を這わせた。
やがて、妹の肉体が男を受け入れるほどにまで準備が整ったのを確認し、瑠央は妹の股間に顔を近づけた。
妹の膣は、待ち侘びたかのように濡れていた。薄めの陰毛も、愛液によって妖艶に濡れている。
瑠央は、妹の秘められた部分を愛撫する。妹は、耐え切れないように喘いだ。腰を浮かせ、悩ましげに動かす。瑠央は容赦なく、妹の敏感な部分を責め立てた。
妹は、嗚咽を漏らしながら、仰け反る。切なげに息を吐いていた。
瑠央は、妹の反応に満足していた。前回の性交から、感度は少しも衰えていないようだ。ずっと以前から、慣れ親しんだ姫奈との肉体関係。姫奈の体は完全に瑠央へと適応していた。
妹が一度、絶頂を迎えたのを確認し、瑠央は妹に覆いかぶさった。そして、愛液で溢れている膣口へと挿入する。
姫奈の秘部は、マグマのように熱を帯びていた。煮たトマトに割れ目を付け、ぐちゃぐちゃになるまでかき混ぜたような、そんな感触だ。
瑠央は、ゆっくりと妹を責めはじめた。妹は、小さく呻き、こちらにしがみ付いてくる。
はじまった二人の愛の結合。瑠央は妹と抱き合ったまま、リズミカルに腰を動かす。伝わってくる妹の快感を確認しつつ、動きを調整した。
次第に、妹の喘ぎ声が大きくなっていく。瑠央は、さらに妹を責めたてた。妹は身体を悶えさせ、無重力になったように、体を仰け反らせる。
瑠央の絶頂と妹の絶頂が重なる。これまで複数回のエクスタシーを迎えた妹は、糸が切れたようにぐったりとベッドに体を沈めた。瑠央はその妹を優しく抱き締め、キスをした。
兄の手により、何度も絶頂を繰り返した姫奈は、兄の口付けに何とか応じたあと、快楽の余韻に浸っていた。
久しぶりの兄との性交は最高だった。死ぬんじゃないかと思うくらい、体に襲いくる悦びの波は凄まじかった。やっぱり、お兄ちゃんは最高の人だ。
姫奈は、兄に抱き締められたまま、兄の胸に顔をうずめた。スポーツマン特有の引き締まった筋肉。慣れ親しんだ、兄の体だ。とても愛おしい。
しばらく時間が経ち、お互い落ち着いたところで、姫奈は口を開いた。
「ねえ、あの話覚えてる?」
「あの話?」
頭上から兄の声が聞こえる。
「うん。あの白い家の話」
いつくらいからだろう。脳裏の奥底に生じた、白い家の姿。兄に茶化されたが、説明したように、瑠央と一緒にあんな家で暮らしたかった。
「覚えてるよ。西洋風のお洒落な家のことだろう?」
兄は覚えてくれていた。姫奈の中に、じんわりと喜びが満ちる。やっぱり、兄は私のことをちゃんと考えてくれてるんだ。
「あんな白い家で、お兄ちゃんと子供を作って、ずっと暮らしたいんだ」
「子供を?」
「うん。二人かな。上は女の子で、下は男の子」
「なんだよそれ」
兄は小さく笑った。やはり、呆れられてしまったようだ。しかし、姫奈は本気だった。本気で、兄の子を身ごもり、出産し、家族を持って過ごしたい――。
この気持ちが自身の心に、強固な城のように根付いていた。
「本気だよ私。私、お兄ちゃんとの間に子供を作りたい」
姫奈が切実に訴えると、兄は笑うのを止めた。こちらを抱き締める力が強くなる。
「ああ。わかってるよ。俺も姫奈の気持ちと同じだ」
兄は、姫奈の頭を撫でてくる。壊れ物を扱うような、優しい愛撫。兄の言葉が本気であることが伝わってくる。
「うん」
姫奈は兄の体に身を寄せた。顔を付け、静かに眼を閉じる。
少し時間が経ち、姫奈はまどろみ始めた。兄も同じのようで、かすかに寝息を立てている。
うっすらと霞んだ姫奈の意識の中、現れてくる情景があった。
海を見下ろす丘の上にある白い建物。西洋風の可愛らしい家だ。
姫奈は、その『白い家』の前で、兄と共に海を眺めていた。二人の両隣には、子供が二人。女の子と男の子。姉と弟である。
二人は、姫奈と瑠央の間に生まれた愛の結晶だ。幸せを体現したような、暖かな家庭。
家族は一家団欒の素敵な瞬間を過ごしていた。テレビドラマのワンシーンを切り取ったような、美しく輝かしい青写真。夢に見た望んだ世界。
姫奈は優しい世界に包まれていた。
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