第2話

コンコンコン

「…誰?」

「私」

「あら、お姉様ですか。どうぞお入りください」


私はセリーナの部屋の扉にノックを行い、中からの返事を確認する。

そこから何も聞こえてこなれければそれでもよかったのだけれど、幸か不幸か中にはセリーナがおり、私の言葉に対して返事を行ってきた。

私はそれを確認した後、彼女の部屋の中にゆっくりと足を踏み入れていった。


「意外と早かったですね。もっと時間がかかるものかと思っていました。お父様とお母様に、しっかりと叱られてきましたか?」

「はぁ…。あなたも本当に暇なのね…。私の洋服をボロボロにして、それがまるで自分が被害者であるかのように振る舞うだなんて」

「別にいいでしょう?私が楽しいのですから」


セリーナは自分の行いを詫びるようなそぶりなど全く見せず、そんなことどこ吹く風といった様子で言葉を発してくる。

…私はむかしこそこういったセリーナの態度に怒りを覚えていたけれど、もう今や何とも思わなくなってしまった。

それくらいに私たちの間では当たり前のような光景になってしまっており、私が誰からも味方をしてもらえない構図に慣れてしまっていた。


「お姉様が悪いんですよ?だっていきなり私の事を疑ってきたではありませんか」

「私は、何か知らないかって言葉をかけただけでしょう」

「それが嫌なんですよ。どうして私がいの一番に疑われないといけないのですか?納得ができません」


結局私の服をボロボロにした犯人はあなただったのだから、私の疑いは当たっていたわけでしょう?

なのにどうしてそこまで開き直れるのか、私にはさっぱりわからない。

このセリーナの性格のどこが理想的で可愛らしいのか、他の人々は彼女のどこに魅力を感じているのかも、私には全く分からない。


「納得ができないって言っても、結局あなたが犯人だったじゃない」

「それとこれとは話が違います。私が悲しかったのはお姉様がいの一番に私の事を疑ってきたことです。私はそのお姉様の言動にひどく悲しい思いをさせられて、その事をお父様とお母様に相談したのです。すると二人は、ここから先は自分たちがレベッカに話をするから安心してくれ、と返してくれたのです。それだけの事ですよ?」

「そもそも、あなたが私に嫌がらせをしてくるからこんなことに…」

「はぁ…。お姉様、なにか勘違いされていませんか?お姉様が今日ここに来た理由はなんですか?私に謝って許してもらうためなんじゃないんですか?」


やはりセリーナは、さきほどの私と両親の会話を聞いていたらしい。

私が彼女の元を訪れる理由もはっきりと理解していて、その事もすべて利用しようとしているそぶりだった。


「私が許さなかったらお姉様は、今まで以上に苦しい思いをさせられるのでしょう?どうするのですか?私に謝るのですか?それとも謝らないのですか?私は別にどちらでも構いませんけど♪」


すべてが自分の計画通りに進んでいるからか、うれしそうな表情を崩さないセリーナ。

ここで変に波風を立てても面倒なことになることはわかりきっているので、私は何とも思わないうちに思ってもいない言葉を口にすることにした。


「ごめんなさい、セリーナ。私が勝手な事をしたせいで、あなたの心を傷つけてしまったわ。きちんと反省するから、許してほしいの」

「クスクス…。言えるじゃないですかお姉様。仕方ないですね、そこまで言われたら許さないわけにもいきません。他の人ならこうはならないのでしょうけど、私は心が広いですからね。どれだけ幼稚なお姉様の嫌がらせであっても、許して差し上げることにいたします。感謝してくださいね?」

「……」


その表情は心の底から嬉しそうなそれであり、セリーナの中ではこの上ないくらいの娯楽なのだろう。

自分の事を悲劇のヒロインにし、私を悪者にするだけで、周りが自分のために右往左往してくれる。

そこにどんな思いが隠れていようと、誰がなんと思っていようとも、この人にはなにも関係ないのだろう。

最終的に自分だけが良い思いをできて、自分だけの評判がよくなりさえすれば。


「それにしてもお姉様、2人から叱られている時のお顔はなかなか面白かったですよ?嫌がっているわけでもなくって、怒っているわけでもなくって、ただただ幻滅したようなあの表情。一体頭の中で何を考えればあんな表情になるのか、私には全く分かりません。お姉様、舞台などにでられてみてはいかがですか?現実世界のお姉様を好きになる人は誰もいないのでしょうけど、架空の世界の人物のお姉様だったらきっと誰か一人くらいはお姉様の事を好きになれると思いますよ?まぁ、それでも無理かもしれませんけど♪」


母親譲りの厭味ったらしさを見せるセリーナ。

彼女もまた最後の最後まで相手の事を攻撃することしか考えていないのだろう。

それも、分かりやすく攻撃的なわけではなく、分かりにくく静かな攻撃…。

だからこそ、余計にたちが悪いのだ。

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