王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったのでした

大舟

第1話

「レベッカ…。君はセリーナの姉なのだろう?どうして姉として立派に振る舞うことができないんだ…」

「ほんと、あなたにはがっかりさせられてばかり…。いったい誰に似てしまったのかしらね?」


心の底から私の事を見下したような態度を見せながらそう言葉を発するのは、私のお父様とお母様。

2人が私に対して嫌悪感を示し始めたのは今に始まったことではなく、私が小さなころからずっとだった。

そしてそうなった原因には、明確なあるひとつの理由があった。


「セリーナを見てみろ。彼女はどこまでもかわいらしく優秀で、周囲からの人気も段違いだ。僕もいろいろと噂話を耳にすることがあるが、その中にはセリーナとの婚約をまじめに考えている貴族家の男性がいるなんてものもある。それほどに彼女は自分の事を磨き上げ、それでいて周囲に優しく振る舞い、今の彼女を作っているんだ」


原因はただひとつ、セリーナだった。

彼女は周りに対して良い子に振る舞うのが得意で、二人の両親はもちろんの事それ以外の周りの人までも常に味方にし続けてきた。

けれどそれは、彼女の性格に底知れない魅力があるからではない。

…彼女がずっとずっと、悲劇のヒロインを演じているためだ。


「ねぇレベッカ、あなたこの間またセリーナの事を裏でいじめていたらしいじゃない。大切にしていた洋服をボロボロにされたってセリーナが泣いていたわよ?あなた、そんなことをして一体なにになると思っているわけ?」

「どうせセリーナの魅力に嫉妬してそんなことをやってしまったんだろうが…。いつまでも陰でそんなことをして、情けないとは思わないのか?セリーナのまっすぐな性格を見習おうとは思わないのか?」


さも当然といった様子で私に叱責の言葉をかけてくる二人。

本当にそれが事実であるなら、私はその話を受け入れるしかないし、反省しなければならない。

だけど、それは全く事実ではないのだ…。

すべては自分の事をかわいそうに見せるためにセリーナが演出した、作り話に過ぎないのだから…。


「ごめんなさい、お父様…お母様…」

「はぁ…。こんな姉をもってセリーナは本当によくやっているな…。僕だったら自分が嫌になって仕方がない…」

「大丈夫よ。セリーナはどこまでも良い子だから、きっとレベッカの事も最後まで受け入れようとしてくれるわ。だから私たちもあきらめてはいけないのよ。レベッカがどれだけ意地の悪い性格をしていたとしてもね」

「やれやれ…。一体いつまでこんなことに付き合わされるのだろうな」

「ごめんなさい…」


私があやまれば、すべてが済む話。

だって誰も私の話なんて聞いてはくれないのだし、信じてもくれない。

ここで下手に私が反論なんてしようものなら、お前はこの期に及んでまだセリーナの事を悪く言うのかと激しい口調で言い返されることは目に見えている…。

というか、そんなことが過去にも何度もあった。

だから私はもう、自分が悪者になることを受け入れ始めていた。

それで周りのみんなが幸せになるのなら、もうそれでもいいかなって思い始めていた。


「ちょっとはセリーナの爪の垢を煎じて飲んだほうがいいんじゃないか?これからもそんな性格で生きていくつもりなのか?今はまだましかもしれないが、大人になった時は痛々しくて見てられないぞ?」

「仕方ないわよ。成長できない人間はいつになっても成長できないのだから」


私はその言葉をそのまま二人に返してあげたかった。

いつまでも成長せずにセリーナの演出にのっかっているのは、二人の方ではないか。

私がどれだけその考えをただそうと必死になっても、結局は二人ともセリーナの方に味方をして私の事を迫害してくる。

どうせ正しいことなど何も言っていない、と言って…。


「それじゃレベッカ、この後セリーナにきちんと謝ってくるんだ。彼女は今自分の部屋にいる。自分の口からきっちり謝罪の言葉を告げてくるんだ。彼女の許しを得なければ、この話は終わらないのだからな」

「優しいセリーナはきっと許すのでしょうね。少しは怒ったっていいのに、それもしないなんて本当に優しい子」

「もしもセリーナが許さないと言ったら、その時はそれ相応の罰を受けてもらうことになるからな。レベッカ、そのつもりでいろ」


どこまでも一方的な言葉をかけてくる二人。

あなたたちがそう言っている裏で、セリーナが口角を上げてほくそ笑んでいるところにどうして気づかないのでしょうね。

その顔こそがセリーナの本当の顔だというのに…。


「ほら、さっさと行ってきなさい。ただでさえセリーナの事を傷つけているのだから、謝るときくらい迅速に行動しろ」

「もう、そこまで言ってはだめよ。人間にはできることとできないことがあるんだもの。レベッカにできないようなことを命令するのは、かえって酷というものよ。できる人にはいくらでも命令していいけれどね」


最後の最後まで嫌味な口調を曲げないお母様。

私は早く終わらせたいという一心で、二人の元を去ってセリーナのもとまで向かうこととしたのだった。

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