第3話

――その頃、王宮での会話――


「クルーレ第一王子様、セリーナ様の事をお食事に招待されるはずだったのでは?」

「あぁ、その話か…」


王宮の中央に位置する、大きな大きな第一王室。

非常にきらびやかな装飾が施され、いかにもそこは王様の玉座であるといった雰囲気が醸し出されている中で、二人の男が会話を行っている。

一人は時の第一王子である、クルーレ。

そしてもう一人は、クルーレの右腕ともいえる騎士であるパドレーだ。


「私が耳にした話では、もうすでにクルーレ様の婚約相手はセリーナ様で決まりなのではないかという話まで上がっていましたよ。お二人の関係はそれほどに良好であり、お似合いのものに見えると」

「確かに、私もついこの間までそう思っていた。事実、セリーナとの婚約を内々に決定する決定書に判も押していた。だが、ここに来てその雰囲気が非常に怪しいものとなっているのだよ」

「…と、言いますと?」


クルーレの中にはなにか、引っかかる点がある様子。

パドレーは今までそんなクルーレの姿を見たことがなかったため、その胸の内を聞き取りにかかる。


「私が秘密裏につかんだ情報によると、どうやらセリーナは非常に性格の悪い野心家だという話だ。もしもそれが本当であるなら、この王宮には絶対に招き入れてはならないタイプの人種ということになる」

「なんと…。にわかには信じがたい話ですが…」


その情報に触れてもなお、二人の様子は非常に冷静だった。

なぜなら、二人をそうさせるだけの背景がセリーナにはあったからだ。


「セリーナ様は、非常に可愛らしく思いやりのある性格だともっぱらの評判です。その噂は、そんな評判を真っ向から否定するものになるわけですが…」

「むしろ、セリーナの姉であるレベッカの方が問題のある性格だと言われていた。事実、周囲からのレベッカに対する評判はあまり芳しくない。身勝手な女だとか、一方的にセリーナの存在に嫉妬しているのだとか、あるいはセリーナの事を裏でいじめているのだとか…。話を上げればきりがないが、それくらいに噂のある姉妹だからな」


セリーナの作り上げた自身の悲劇のヒロイン像は、この王宮にまでその話を進めていた。

それほどに徹底して姉との関係を支配していたのである。

心優しい性格であるレベッカはそんなセリーナの振る舞いに対して反撃を行ったりすることがなく、むしろどこか達観した様子で自分の事を見ていたため、セリーナはなおさら調子に乗ってしまっているのだった。


「しかしそうなると、我々が知っている姉妹の話は全く違うものだという事になりますね…。むしろ、姉であるレベッカ様の方が被害者であるという可能性さえ出てきますが…」

「それだよ、私が案じているのは。この噂が本当で、好き勝手な振る舞いをしているのがセリーナの方であり、レベッカがそれに巻き込まれているのだとすれば、ここでセリーナとの関係を築くことほど愚かなことはない。むしろ、そんな状況でも妹や家族に波風を立てないよう耐え忍んでいるレベッカの方こそこの王宮に入るにふさわしい性格をしている」

「王宮に入るものに必要なのは、耐える力である。クルーレ様が常日頃おっしゃっておられるお言葉ですね」

「ゆえに、このままセリーナとの関係を続けるのが正解がいなか、見極めたいと思う」

「それでお食事の約束をためらわれていたのですね。納得です」


クルーレの考えを耳にして、パドレーはそれまで抱いていた疑問を解決させる。

その上で、話題は今後の話に移っていく。


「ではクルーレ様、今後の関係についてはどのようにお考えになっておられるのですか?」

「それだが…。私の中で一つ、二人の本当の性格を見極める計画がある。これを行ったうえでなおセリーナの方がふさわしいという結果になったなら、私はこれまで通りセリーナに婚約関係を申し入れようと思う」

「…では、そうならなかった時は?」

「その時は、セリーナではなくレベッカの事を婚約者にしたく思っている。この姉妹は間違いなくどちらかが巨悪であり、どちらかが悲劇のヒロインなのだ。だからこそどちらかは、この私の婚約者として第一王子妃になるにふさわしい魅力を有しているものと思う」

「王宮で生きていくには、人間としての魅力はもちろん大事ですが、政治力というものも必要ですものね…。クルーレ様のご判断は、決して間違っていないものと思います」


2人は考えをすり合わせ、セリーナとレベッカのうち果たしてどちらが真に王宮に入るにふさわしい人物なのかを計りにかかった。

それは相手のことを試しているようにも思われるが、一方でこれまで不条理な扱いを受け続けてきたレベッカの存在が日の目を見ることになることでもあった。

結果が何をもたらすのかはまだ何も分からないものの、少なくとも二人の姉妹にとっては今後の人生を大きく左右する重要な分岐点の訪れを予感させるのだった…。

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