第3話 魔法の花を咲かせましょう

 ゲルダの住む大きなお屋敷は真っ白な花で埋め尽くされています。でも本当に欲しい花はなかなか咲きません。

「いつになったら咲くのかしら……」

 数百年経っても、あの七色に輝く不思議な花を咲かせることはできずにいます。そしてゲルダからは色が消えたまま。魔女に言われたとおり、年を取ることもなく死ぬこともありませんでした。ただただ、花の手入れをする毎日。彼女はふと当時のことを思い出します。あの日、真っ白に染まったゲルダが村に戻った日のことを。


 色を失ったゲルダが村に戻ると村人たちはゲルダに向かって石を投げつけました。

「こいつ、魔女の手下になったんだ! 殺しちまえ!」

 泣きながら逃げ惑うゲルダ。どうにかして家に辿り着くとそこで待っていたのはまるで化物でも見るかのような祖母の視線でした。

「この化け物! 出て行きな!」

 そこらにある物を手当たり次第に投げつけてくる祖母。

「やめて! 私よ、ゲルダよ」

「嘘だね、私にそんな気味の悪い孫娘はいやしないよ!」

 ゲルダは泣きながら家を後にしました。ダメだ、このままじゃ化物として殺されてしまう。例え別の村に行ったとしてもきっと同じ。どうにかして自分の色を取り戻さないと……。それには魔女の言うとおりあの不思議な花を咲かせるしかない。ゲルダは心を決め胸元から魔女にもらったガラスの小瓶を取り出しました。

(いいじゃない、村の人たちはいつも私に冷たかった。今度は私がする番よ)

 心を決めたゲルダは夜になり皆が寝静まるのを待ってそっと村に戻ります。そして近くを流れる川、村の井戸、皆の耕す畑に小瓶の中身をふりかけました。不思議なことにどれだけ注いでも瓶の中身がなくなることはありません。再び身を隠したゲルダは次の日の夜、村に戻りました。すると、驚いたことに村人たちは皆氷のように固まっています。

(これが……魔法の花のってわけね)

 固まった村人を冷たく見下ろしながらゲルダはにっこり笑いました。


「嗚呼、いつになったら咲くのかしら、あの不思議な花」

 追憶を振り払うようにしてゲルダは歌を口ずさみます。それは魔女から教えられた魔法の花を咲かせるたったひとつの方法。


――よぉく土を掘り返し、お水をたっぷりあげましょう。


――ほぉら、ふわふわ寝床のできあがり。魔法の花の寝床です。


――お花はとっても欲張りで。たくさんたくさんを食べる。


――さぁ魔法のしずくをふりかけて。冷たくなった……


 不意にゲルダの歌声が途切れました。

「あら?」

 屋敷に誰かやって来るのが見えます。ゲルダはじっと目を凝らしました。見えてきたのはぷくぷくと太ったとても健康そうな少年。ゲルダは顔をほころばせます。

「ちょうどよかった。最近誰もここを通らなくなってしまって、肥料が足りなくなってきたところなの」

 彼女はそそくさとお客様をもてなすため、お茶の支度を始めました。もちろん魔女からもらったガラスの小瓶も忘れずに。そしてやって来た少年に上機嫌で話しかけます。

「ようこそ、魔法の白い花咲くお屋敷へ」


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ゲルダと魔法の白い花 凉白ゆきの @yukino_s

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