第11話 祖父来襲

僕は何事もダラダラ続ける事が嫌いだ。


失礼、一行で訂正します。

遊ぶ事、ダラける事にダラダラする事は大好きだ。

頑張らなきゃならない、努力しなきゃならない事をダラダラ続ける事が大嫌い。


自分の集中力が続く時間だけを真剣に取り組んだ方が、効率が良く結果を残せる。

僕の能力は、頭脳的にも体力・運動神経的にも人並みくらいはあると思う。

一応、国立大学に現役で合格出来たんだから、それなりにはそれなりでしょ。


なので、剣道の稽古時間も短い。

ましてや今日みたいに、家具やAmazonや食材をたっぷりと買い込んで配達されるのを待ってる日にゃ、落ち着く筈がない。


なのでなので、8時30分には稽古を切り上げた。


「モウオシマイ?」


と、瑞穂くんはブーイングを漏らしていたけど、素振りはいつでも出来るし、打ち込み稽古用に木偶人形を作ってあげようと思う。

面と胴はどこかで中古品を買ってくればよね。

通販でもヤフオクでも。

倉庫に何やら角材や2×4材(いずれも新品)が並んでいたので、大学が始まる前に作っておいてあげようと思う。


祖父なり、父さんなりが何らかの思惑があって置いてあるのなら、昨日行ったホームセンターで買い足しておけば良い。


………


「ブウブウ」


本当にブーブー言いながらも、さっさとシャワーを浴びて普段着に着替えた瑞穂くんは、僅か2日ですっかり日課となった、庭に面した外廊下の縁側にいつもの巣を作って少女漫画を読み耽っている。


あの、自分でお盆に乗せて持って来た湯呑みには、湯呑みらしく自分で淹れた緑茶か入っているし、お茶受けにはお煎餅が見えるんだけど。


たしかに昨日、瑞穂くんにねだられて買ったけどさぁ。

炭酸飲料やソフトドリンクが冷蔵庫に入っているし、ポテチやたこ焼きスナック(ソース味が僕は好き)も納戸に入ってるよ。


日本かぶれか、日本贔屓か、日本を体験したいのか、味覚がお婆ちゃんなのか知らないけど、随分と渋い趣味ですね。


勿論、僕は否定したり疑問を呈したり、馬鹿にしたりする事は絶対にしません。

身近な、しかも家族になった女性は、倫理に反する事をしなければ全肯定なので。

だって、怒らせると怖いじゃん。

怒っている女の子が側にいるとか、胃に穴開いちゃうよ。


座布団をお腹の下に敷いて、うつ伏せになり出したリラックスお姫様は見ないようにして、と。

あと、短いスカートを履いて男の前でする格好じゃないし。

それに、うつ伏せでお茶を飲んでいる姿はどうかと思うけれど。

ほら、溢して漫画を濡らして慌ててる。


僕はというと、2人で決めたリビング予定部屋に、壁掛けテレビを設置している。

というか、この家テレビが何台あるんだよ。

別に最新型でも3D(何だったんだろ、あのブーム)でも4K2Kとか言う高画質テレビでも無い、普通のモニターだから、そんなに高い訳ではなさそうだ。

Amazonとかネットプリックスの外部端子も無いし。


「あははは」


瑞穂くんが足をバタバタさせて爆笑してる姿(少女漫画で爆笑って何だと思って、ゴミを捨てるついでに覗いたらパタリロだった。)を背後に、庭で段ボールを結束している間に第一便到着。


駅前のネットスーパーと、花束を持った祖父だった。


★ ★ ★


「オジイ!」

「おうおう瑞穂。良く来たな。」


食材で満載の段ボールを、ヤマトさんから受け取っている横で孫(でいいのかな?)の再会を喜ぶ爺じはほっといて、先ずはこれをかたさないと。

冷凍食品や、生ものがクール便で混ざってるから。

というか、あの2人面識あるんだ。

祖父の事だから、スペインまで行ってても驚かないしさ。


「光には可愛がってもらってるか?」

「ナンニモナイヨ」


物騒な会話は聞こえないふりをしよう。

この高齢者が黒幕らしいから。

黒幕の応対は瑞穂くんに任せてっと。

さぁ台所、台所。

一応、あんなんでも肉親だから、歓待のふりでもしないと。


「何じゃ何じゃ。せっかく家をプレゼントしてやったというのに、冷たい孫じゃ。」


慌てて瑞穂くんを連れて追いかけてくるオジイ(笑)。


「いやいや、僕は実家から通える大学を選んだんですよ。独立する気なんか就職するまで無かったんだけどな。」

「この家買うのに結構したんじゃぞ。贈与税だかの税金は、ワシが全部払っとるし。」

「爺ちゃん、何言ってるか意味わからんぞぉ。」

「どうせワシも婆さんも長いことはないからの。前途有望な孫夫婦に金を使いたくなっただけじゃ。」

「あの。爺ちゃん?貴方そんな爺むさい喋り方してませんでしたよね。」

「瑞穂の手前な。」


どうやら瑞穂くんの、テンプレートな日本知識は、やっぱりこの爺さんが原因だったらしい。


「あと、勝手に瑞穂くんと夫婦にしないで下さい。」

「ん?瑞穂じゃ嫌か?」

「嫌も何も。まだ会ったばかりだし、年齢的に守備範囲外だし。」

「固いのぅ。ワシが婆さんに手を出したのは、婆さんが13の時じゃったぞ。」

「それは多分、爺ちゃんの時代でも倫理的どころか法的に犯罪です。」

「初潮は済んどったから大丈夫じゃ。」

「いや、駄目でしょ。」


双方同意の上でも婦女暴行だよな。


「別に親同士が認めて、本人同士も認めあっていた許嫁じゃったし、ちゃんと後で貰って、今でもそのまんま夫婦じゃし。」

「そういう問題ですかね。」

「おかげで、ずっと頭上がらん。」

「知らんがな。」

「息子はちゃんとしてるから、カカア天下は光に継がせようぞ。」

「孫を巻き込まないで下さい。」

「愚痴を溢し合える人、おらんのよ。」


あぁまぁ。

この通り破天荒なパワフル祖父です。

警察じゃ、それなりに結構な出世をして、何やらお金持ちみたいです。

老先短いから、全部僕にあげると言ってるようなもんだよ。これ。

でも婆ちゃんは物静かで優しい人なんだよね。

今、ロクでもない人生を聞いたけど。

次会う時までに忘れないと。


大叔母さんとやらはスペインに移住してるわけで、瑞穂くんは1人で日本に来てるし。

どうやら普通に教職の夫婦の間で、普通に育った普通の僕は。

ちっとも普通じゃない一族の中では、僕だけ逆に普通じゃないらしい。

両親がこの有り様を認めてるんだから、両親も普通じゃない方なんだろう。

なんだかなぁ。


………


さてねぇ。

「爺ちゃん、何しに来たのかは知らないけど、お昼くらいは食べて行けるんでしょ?」

「ん?まぁ瑞穂の様子を見に来ただけだし、ついでだから隣(良玄寺)に墓参りくらいはしてくつもりじゃけど。」

まぁ持って来た花束、明らかに仏花だし。


「そういや光の飯は美味かったな。いつぞやの筍料理は絶品じゃった。」


あぁ、去年だっけ?

爺ちゃんちで朝採りした筍で、柚子味噌で和えた筍の刺身と、皮ごと焚き火焼きに、筍ご飯に、筍の味噌汁、筍と大根と鶏の煮物なんかをちゃっちゃと作ったら、変に好評だった。

いや、たまたま僕が捻挫していて筍狩の手伝いが出来なかったから、手持ち無沙汰になって、婆ちゃんと一緒に作ったんだよ。

いつも作ってる婆ちゃんとは、そりゃレシピも違うから、味も変わるでしょ。

婆ちゃんの料理って、上品な味だし(僕から見ると)。


「ええと、何を買っておいたっけ?」

まだ昼には早いけど、下処理くらいはしとこうかね。

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