第7話 お買い物

実は、瑞穂くんを迎えるにあたり、大叔母から結構な支度金が僕の口座に振り込まれている。

支度金って言葉に引っ掛かるけど、これは瑞穂くんに使いなさいと判断した。

あと、どのくらいかというと、ええとユーロで振り込まれた上に円安で、あぁもう。

計算が面倒くさいし、これどうやって引き出せばいいんだよ。


ぶっちゃけちゃえば、10,000ユーロ送られてきたから、軽自動車くらいは買える額だ。


更に彼女は、結構なドルとユーロと日本円の入った、スペインのワイズ銀行とゆうちょ銀行の通帳を持っていた。

Suicaなどのデジポットもほぼ満額で入金されている。


ここまで彼女の両親が話に全く出てこないけれど、あっちではそれなりに素封家なのだろうか?


考えてみれば、ウチの祖父も家(というかお屋敷)を1軒、合格祝いとして孫にプレゼントする、頭のおかしい家系だしな。

僕も、物欲が弱くて無駄遣いしない性格(タチ)ではあるので、お小遣いに困った覚えはない。


実家が普通の建売住宅だったから、普通の中流家庭だと思っていたけれど、どうもここ1週間の有様を見ていると、我が一族は全く普通ではなさそうだ。


まぁ、僕は僕だ。

僕の価値観に沿って、僕の生きたい様に生きよう。

宝くじに当選した結果、破産するって話しは聞いたことあるしな。


………


と、言う事で、瑞穂くんの満額入ったSuica(あとPASMOも)は、成田からの電車賃くらいしか使ってなかったので、両替だの入金だの切符を2枚だの、騒ぐ事なく移動が出来た。


駅前の商店街に郵便局があるし、ワイズ銀行は三菱UFJ銀行で使えるとわかった。


彼女を1人にすることがあっても、なんとかなりそうだな。

うん。

僕の大学入学式も近いし。


………



「Guau!」


先ずは駅から1番近い「そごう」に入った。

本は荷物になるし、後でAmazonで買えばいいから、今日明日でどうしても読みたい本だけ選びなさい。

と言って彼女を放流して、手近な椅子に腰掛けて待つ事にした。

いや、僕にも人並みに読書習慣はあるよ。

ただ実家から持って来た本が、まだ積み上がっているのと、普段はアマプラなんかの動画サイトの消費が主になっていて本がちっとも減らないだけだ。


こんな大型書店をウロウロすれば、欲しい本が出てくるに決まっている。

しかも大抵お高くて、物理的に重たい本が。


という事で、わざわざ人待ち顔をしながら待機となる。

やれやれ、荷物が多くなりそうだし、これからハシゴをしないとならない。

自動車が欲しいな。

大学の履修登録が済んだら、教習所に通う事にしよう。


しばらくして。

待機の末に僕が見たものは、買い物籠に溢れんばかりの少女漫画を持つ同居人の姿だったりする。


「…返して来なさい。」

「Disgusto!」


なんて言ってるのかわからないけど、嫌がっているのはわかる。

この娘、こんな面倒くさい娘だったのか。


Amazonに打ち込んだら、最新刊は最速で今日、その他殆どは明日配送される事がわかって、やいのやいの言いながら、なんとか殆どを書棚に戻させる事に成功した。

したけど、これからタワーレコードでDVDを漁る予定なんですけど。

また、同じ騒ぎを起こすんじゃなかろうな。


「スペインニニホンノマンガウッテナイ。」

あぁなるほどね。

クールジャパンとか言って、漫画やアニメをこの国は売り出していたなぁ。

考えてみれば、瑞穂くんの年齢なら、漫画にハマってもおかしくはないか。

中3の頃って、僕は何にハマっていたかなぁ?


あと、Amazonのアカウントに、父さんが勝手にクレジットカードを登録しやがった。

というか、使ってなかったタブレットに父さん名義でプライム登録してやがったから、親の金で買い物し放題だ!


って後で知ったよ。

なんなんだよ。我が家。


………


幸いな事にDVDで狂乱する事はなかった。

タブレットのアマプラから、アニメ系のリストを見て、顔に花を咲かせていたから。

その他に別会社の動画サイトを契約すれば、大抵の映画も網羅出来るだろう。


ユニクロでは、上から下まで、中から外まで揃えさせた。

女性向けファッションなんか僕にはわからないから、とりあえず(いつもの)だ。

お隣のお姉さんに聞くも良し。

いずれ友達を作って買いに行くも良し。


って正直に言ったら。

「ヒカリ、ヤクタタズ」

って笑われたぞ。

…あと、ヒカリサンからヒカリになってたけど、気が付かないふりをした。


家具屋、というものがルートに無かった。

それこそバイパスまで行けば、お値段以上のお店があるけど。


という事で、少し大きめのホームセンターにやって来た。

瑞穂くんの部屋の調度品を揃える為だ。

何十マンもしちゃう家具調ベッドは無いけれど、パイプベッドは売っている。

パイプベッドだけだと腰を痛めるけど、良いマットレスを敷けば逆に眠りの質があがる。

いや、眠りの質ってなんだと言われても説明出来ないけど。


僕のベッドはマットレスをポケットコイル式に変えてある。

子供の頃から使っていた元のマットレスが痛んで来たから交換したら、多分元のマットレスより安いのに、よく眠れるようになったんだ。

という経験から、何はともあれ寝具コーナーへ。


そしたら。


「ベッドイラナイ。フトンガイイフトンガスキ」

と、聞きようによっては余り宜しくない主張を店内で始めちゃったのです。


まぁ本人がそれで良いなら。

いざとなったらAmazonで買えばいいし。


ホームセンターに箪笥は売っていなかったので、衣装ケースや組み立て式のパイプデスクセット。

あと、絨毯やラグや、いかにもお安いソファとガラステーブルのセットなんかも購入。

明日、全部配送してもらう事にした。


「ヒカリ、コレホシイ」

「はいはい。」


って瑞穂くんが指差したのは、文机。

勿論、椅子に座って向かうタイプじゃなく、正座してあいたいするタイプ。

デスクセットは買ったのに。


どうもこの娘は、古い日本のしきたりで暮らしたいみたいだ。

共有スペースはともかく、パーソナルスペースは、畳に直接寝転がったり、座ったりするつもりらしい。

まぁ、スペインに和室は無かろうし。

飽きるまで好きにさせておくか。


ついでにカラーボックスをいくつか買って本棚代わりにしようか。


…その内、ニトリかIKEAか大塚家具に連れて行かないとな。

その前に免許を取って車を買わないと。

いやいや、更にその前に、大学行かないと。


なんだろう。

この果てしなく続くクエストは。

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