Second Impact 16


 早朝、―――。

「滝岡先生、神尾先生に永瀬先生も、…――――」

西野が医局の扉を開けて入って来て、あきれてみるのは。

 白いソファの置かれた休憩というか、仮眠スペースに。

 折り重なって寝ている滝岡達。

 滝岡の肩を枕代わりにして寝ている神尾と、その滝岡と神尾に寝像悪く頭を下にして寝て足を置いて寝ている永瀬。

「当直室を使ってくださいと、いつもいってるんですけどね」

あきれて小さく呟くと。

 溜息を吐いて荷物をデスクに置き、お湯を沸かす為に、水を入れる器を手に取る。そして、そっと起こさないように部屋を出て。

 そして、残された室内では。

「…――――ん、…せきちゃん、おかわり」

永瀬が何事か寝言を呟いて。足を腹に投げ出された神尾と滝岡が無言で眠っていて。

 神尾が、滝岡の肩を枕代わりに、実に気持ち良さそうに眠っていて。枕にされている滝岡も、気付きもせずに深くぐっすりと眠っていて。

 穏やかに、何事も無く。

 何事も無く、あるように。

 変わらない朝が来る為に。

 その為に力を尽くして。


 三人がそうして平和に眠っているのを、戻った西野があきれてみながら。

 起きたときの為に、湯を沸かす為に水を入れて。

 起こさないようにして、仕事を始める。

 朝日が昇り、忙しい時間がくるまでは、あと少し。

 それまで、少しばかり平穏に。

 平和に、眠っている三人がいるのだった。


 平和で平穏な朝を呼び込む為に。

 力を、常に尽くして、―――。

 そうして。



 西野が仕事を始める音と、湯が沸き始める音がしずかに響き始める。

 何事も無い朝の訪れが。

 こうして、またはじまって。

「ん、―――?にしのちゃん、…。きたの?」

「おはようございます、永瀬先生」

「――――…んん、…あれ、神尾ちゃん、たきおかちゃん?」

いいながら、永瀬がまず寝惚けながら起きて。

「…こーひー、…」

ふらりと起き上がって、永瀬がコーヒーを飲む為に、湯沸かし器の方に近付いていく。

「かみおちゃん、たきおかちゃん、…よくねてるねえ、おはよう、西野ちゃん」

「おはようございます。皆さん、遅かったんですか?」

「…―――ん――、いや、それほどでも、…三時?」

「御二人も?」

目を擦りながら、ぼけーっと永瀬がしばらくマグカップをみて立ち尽くす。

「…いや、こいつらは何か、確か、連絡が入ってて対応もしてたな。…二時間はかかるとかいってたな」

「わかりました。調整します」

「お願い、西野ちゃん。…これ、くりーぷどこ?」

「落ち着いて右手側に、カップ一つ分手を動かしてみてください」

「あー、あったー、にしのちゃん、すごーい」

うれしそうにたっぷりクリームを入れて、コーヒーを入れて。

永瀬が振り向いて眠る滝岡と神尾を見て、ミルクたっぷりのコーヒーを手にぼんやりとしながら。

「…平和だねえ、」

「そうですね。落ち着かれたんですか?」

「ん、一般病棟には三日後に移せると思う。スケジューリングは出すけど」

「お願いします。…良かったですね」

仕事をしながら、穏やかに微笑んでいう西野にうなずいて。

「ふああー、…おれ、ちょっと顔あらって、めしくってくるわ、…あとよろしく」

 ひらり、と手を振ってカップを手にしたまま永瀬が出て行くのに西野が見送って。

 それから、眠る二人をみて。

 ―――朝の人達が来るまで、寝かせておきますか。

 さて、スケジュールを確認しよう、と。

 西野が滝岡達の予定に、休憩する時間を組み込めるように調整を始めて。

 そうして、すっかり眠っている、滝岡と神尾。

 周りの動きにも気が付かず、深い眠りの中にいる二人に。

 こうして、いまは平穏な時間が訪れているようで。


 かくして、なべて世は何事も無く。

 なべて世は、こともなし。





First Contact

Second Impact

                           了






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