Second Impact 11
車を降りて、施設に入りながら、関が関係者に迎えられて何か云っているのを待って、神尾が周囲を見廻す。
大股に関が歩いて来て。
「待たせた、すまんな。先にあちらで状況を説明する」
「わかりました」
関に先導されて滝岡と共に施設に入ってすぐの処にある詰所に入る。
狭い室内にテーブルがあり、二ヶ所ある入口を警備している兵士にも落ち着いて神尾が、同じく表情を変えない滝岡と共に室内に入る。関が、兵士達に構わず、テーブルにタブレットを置く。
「こちらが、いま拘束した四名の状況だ。全員が男性、年齢二十二才から三十五才。米国籍。携帯していた細菌とウイルスだが」
タブレットの画像が以前みたものと同じ形式の袋に細菌とウイルスが入っているものに代わり、神尾が云う。
「…使われていますね。少なくとも、…これは、検査には?同じ細菌かどうかについては、鑑定はまだでしょうね」
神尾が向けてくる視線に関が頷く。
「彼等が捉えられた施設の周辺、利用していた設備等では捜索が始まっている。水処理の設備等、細菌を感染させる為に、この施設内でどのような事が考えられるか、教えてほしい」
関の問い掛けに神尾がしずかに見上げる。
「…残念ながら、この施設内だけという訳にはいきません。それと、調べる対象と方法についてですが、…―――」
神尾の提案に、関が眉を寄せる。
「…滝岡?」
視線を向け、問い掛ける関に。
しばし視線を伏せてから。
「妥当だと思う。本来なら、もう少し厳密に行う必要があるが、…―――いま臨時に行うということに関しては、神尾の提案する方法ならば妥協できるな」
「…―――妥協なのか、それで」
眉を寄せて、滝岡と神尾を関が見比べる。難しい顔でみる関にも、のんびりと見返す神尾に、真面目に表情を変えずにいる滝岡に。
関が軽く額に手を当てて、肩を落とす。
「わかった、交渉してみよう、…――。それが最低限なんだな?」
「…はい。できれば、本来なら血液検査を行い、この後も診ていく必要がありますが」
「その点に関しては手配しています。お待たせしました。――関?」
鷹城がにっこりと微笑んで入って来て、難しい顔をしている関をみて首を傾げる。
「どーしたんだい?」
鷹城に、関が近付いて小声で神尾達の要求をいって。
少しばかり、目を見開いてあらためて神尾と滝岡を鷹城がみる。
「…えーと、交渉してきます」
「…頼む」
難しい顔のまま鷹城が出て行くのを関が見送って。
改めて別の施設に案内されて。
防護服を着た神尾と滝岡が、互いの防護服がきちんと装着されているのを確認して、案内された部屋に入る。
彼等と同じように防護服を着た兵士が数名に、寝台。
そこへ、拘束された男が入って来る。
「…――――ありがとうございます。其処に座ってください」
寝台脇の椅子に座らせた相手を診察して、神尾が次に云う。
「では、そこに衣服を脱がせて寝かせてください」
滝岡と神尾が、兵士達が拘束された男の衣服を脱がせて、寝台に横にならせた男の身体を調べ始める。
「…―――何だって、裸にする必要があるんだ」
関が眉をしかめて、隣の部屋から神尾と滝岡が兵士に守られながら、拘束した犯人達を一人ずつ、全身を脱がせた上で調べていくのをみていうのに。
隣で鷹城が微笑んで云う。
「ま、いいじゃない。きみと同じで発想が暗いってことでしょう?」
「…――――だからって、別にわざわざ全身に注射痕がないか何て調べなくてもいいだろ。発症してからでいいじゃないか。隔離するんだろ?」
裸にして丁寧に全身に注射痕がないか調べている神尾と滝岡に、関がうんざりとしたようにいうのに。
「ダメだよ、僕はそれでもいいけど、あの二人はお医者さんだもの。防げる病気を発症させるなんて、許せないんじゃないかな?多分。自ら感染症にかかって、感染源になって周囲にバラまこうなんて、よく解らない発想の人達でもさ」
「…――いまから予防してやることは無いだろう。どうせこの後、隔離して経過をみるそうだからな。死なせないように治療くらいはするだろうに。脱がせて検査させるのに、どれだけ文句をいわれると思ってるんだ、――そうでなくても調整が面倒なんだぞ?」
「…――まー、それはそうなんだけど。あ、注射してる」
「痛そうだな」
鷹城が検査を終えてか、神尾が犯人の腕に注射しているのをみてくちにする。それに、関が嫌そうに眉を寄せてみて。
「おまたせしました」
神尾と滝岡が防護服を脱いで、関達が待っている部屋に戻って来て。
「お待ちしてました。うまくいきましたか?先生達」
少しふざけた風に明るく鷹城がいうのに、滝岡が頷く。
「一応はな、…神尾」
滝岡がジェラルミンケースから書類を出しながら神尾に振り、神尾が頷いて関達を見返す。
「注射痕等はありませんでした。ご面倒をお掛けしました。投与されていたとしても、経口投与でしょう」
「尤も、注射痕が残らないものもあるがな。現時点での血液採取はしたから、後は検査をしてもらって、経過観察をしていってもらうしかないな。…――――これが、これから必要になる検査項目と、今回投与した抗生剤のデータ、それに、今後必要となる血液濃度とそれを保つ為に必要として計算した抗生剤の投与量。体重別に計算はしてあるが、これまでの病歴や個人の体質等により変わる可能性がある。…――これを引き継ぐ医師達と話はできるのか?」
不機嫌な顔で細かいデータが載っている英文でのデータを手渡す滝岡に関が片眉を上げて見返す。
「…随分と準備がいいな」
「英文だからか?こういったのは日本語で作る方が面倒なんだ。これからの管理に間違いはないだろうな?」
「できれば陰圧室で、四名共に一定期間隔離をして、排泄物等を特に厳重に管理してほしいんですが」
難しい顔で関を見る滝岡を引き継いで、のんびりと神尾が要求をする。
「…あのな、…―――。あちらさんに全身を裸にして調べたい、という要求を通すだけでも頭が痛いのに、――――…。後は任せるのじゃダメなのか」
「甘くみるな」
関が嫌そうにいうのに、滝岡が鋭く云う。
「いいか、確かにいま打つ手で発症は予防できるだろう、しかし、―――」
厳しい顔で云い掛ける滝岡にのんびりと神尾がくちを挟む。
「関さん、僕達がいま患者さんの全身を調べて、注射痕が無いかどうかをみたのは、確かに発症を予防する為です。細菌をもし、注射で直接投与していた場合、血液に感染した菌が広がり、より重篤な症状を引き起こす可能性があります。その場合、―――」
神尾の肩に手を置いて、滝岡が僅かに眉を寄せた難しい表情のまま関を見返す。
「…――重症になるというのは、菌がそれだけ多く増殖しているということだ。…それは、ウイルス、…―――このファージが取り憑いて増殖できる場所が増えるということでもある」
「その通りです。細菌が体内で増え、その量が増えれば増えるほど、ファージが取り憑いて増殖することができます。それは、それだけ多くの毒素が生産されるということでもあります。…救命できるとは、限りません」
穏やかに、だがきっぱりと関をみていう神尾に、滝岡が穏やかに引き継ぐ。
「だから、俺達は予防的投与を選択した。発症する可能性のある段階での、抗生剤の予防的投与、―――」
「本来なら、感染している徴候も出ない内には抗生剤は決して投与しないんですがね。でも、この場合、細菌に触れている可能性は高いですので。それに、――――」
神尾が、ふわりと微笑む。
「抗生剤が効いて、細菌が増殖することがなければ、細菌に感染して増殖するファージは増えることができません。この抗生剤の投与で発症が防げれば、…―――」
滝岡が、少しばかり天井を眺めるようにして、神尾から視線を逸らす。
「もし、他でこの細菌とウイルスのテロが行われたとしても、同じようにして発症を防ぐことができますからね。今回、被験者が健康体で男性に偏るという条件ではありますが、良いデータが取れるでしょう。是非、これから監視と治療を行う施設の条件等に、結果も教えて頂きたいのですが」
「…――――」
関と鷹城が沈黙して互いに顔を見合わせてから。
「…あの、神尾さん?」
「はい?なんでしょう?」
鷹城が恐る恐る問い掛けるのに、神尾が不思議そうに見返して。
その彼等に背を向けた滝岡が、ぼそりと呟く。
「菌が注射器で血液に注入されてなどいた場合に、敗血症などが起これば、…今回の方法では対応が難しくなるからな。劇症になってしまうと、菌単独に対するデータが取りにくい、んだそうだ」
「…――――滝岡」
背を向けている滝岡に、関がしみじみとした視線を向ける。
「何だ?」
「いや、…」
何かを云いかけた関に、神尾が不思議そうに首を傾げる。
「いえ、劇症となっても、そのデータもやはり貴重ですよ?対応が難しくなるのは確かですが、…――。唯、今回健康体で特に疾病の無い、男性のみという偏ったデータ構成になるのは確かに残念ですが」
「…―――おれが悪かった、うん」
しみじみと頷いていう関に、滝岡が背を向けたまま頷く。
「いや、…」
「どうかしたんですか?」
不思議そうに訊く神尾に、おかしそうに鷹城が微笑んで応える。
「いえ、気にせずに。そちらにもデータと経緯が掴めるようにお知らせします。それに、実際、これで対応できるとは限りませんからね?」
「はい、そうです。この抗生剤の投与で対応できるかどうか。それは本当にこれからなんです」
ですから、きちんとデータはとらなくては、という神尾に頷いて。
「わかりました。お知らせします。何かあったら、何れにしても御二人のアドバイスが必要ですから」
にっこりと微笑んでいう鷹城に。
これもにっこり穏やかに微笑んで神尾が見返す。
「はい、お願いします」
にこにこ微笑んでいう二人に。
「…――――」
いやそうに視線を逸らして、関と滝岡が、その互いに気がついて。
一瞬視線を合わせて、溜息をついて同時に視線を逸らす。
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