第2話 蘆名盛興

いつもの軽い羽毛布団ではなく、重厚な綿布団の重み感じながら目を覚ました。ぼんやりとした意識が徐々に覚醒していくなかで、ここが一体どこなのかと考えを巡らせる。


周囲を見渡すと、四角く整形されたのではない流線型の自然の木を活かした柱が特徴的な部屋だ。意識を少し集中させると畳の懐かしい香りがし、障子から差し込む柔らかな光が部屋を優しく照らしている。

そして床の間には武士の甲冑と刀が二本飾られており、ここが令和ではないことを強く実感させる。


心臓がドクンッと音を立てた。

そういえば、天照皇大神が俺を「あの時間線」に転生させると言っていた。転生先の世界は武士の時代なのか、それとも甲冑はただの模造品なのか。好奇心が刺激され、思わず布団から這い出し、甲冑と刀の観察を始める。


湊斗はゲーム「信長の野望」の大ファンだ。世間では野望マニアと呼ばれている。武将たちのデータが頭の中で鮮やかによみがえる。


甲冑に夢中になっていると、遠くから足音が近づいてくる。部屋の前足音が止まり、女性の声が響いた。

「盛興様、目を覚まされましたでしょうか?」


戸惑いながらも

「はい、起きております」

と答える。

すると、ガバッと障子を大きく開け、大口を開けた少女が驚いた様に目をも見開いていた。

そしてはっと気づき、バタバタと逃げ去っていった。


その後、4、5人の大人の足音がドタタタタタッと近づいてくる。

「殿!目を覚まされたのですね!」

驚きと期待が入り混じった何人もの声が轟く。


俺は新たな世界での自分の運命を感じながら、心の中で静かに覚悟を決めた。


俺の前には三人の武将が正座し、その背後にはさっきの少女が静かに立っている。真ん中に座っているのは、立派な髭を蓄えた威厳ある武将だ。彼がゆっくりと口を開く。


「殿、痛むところはありませんか?」


俺はお殿様らしい…良し!


目の前にいる彼らの顔には、まったく見覚えがない。当然名前も知らず、戸惑いの波が押し寄せる。

さて、どうしたものか… しばしの沈黙の後、あるアイデアが浮かんだ。


「どうも記憶を失ってしまったようだ…自分が誰なのかすらわからない」

と問いかけると、彼らは一斉に驚愕の表情を浮かべた。


威厳ある髭の武将は、しっかりとした声で応じる。

「殿、あなたは会津国の当主、蘆名盛興でいらっしゃいます。昨年、お父上が病を得て他界され、13歳で跡目を継がれました」

と丁寧に説明し、今が1560年の1月であることを教えてくれた。


盛興の父と言えば蘆名盛氏だ。確か1580年まで生きるはずなので、随分早くに亡くなったことになる。

どうやら天照皇大神は、俺をこの時代の大名として転生させたかったらしい。


自分が本当に戦国時代にいることを実感し、野望マニアの俺はワクワクが止まらない。


この世界での俺は馬から落ち、頭を地面に強く打ち付け丸三日間も意識を失っていたらしい。それで最初の挨拶が「痛いところはありませんか?」となった理由のようだ。


真ん中の威厳ある武将は、佐瀬胤常という56歳の老練な家老で、盛興の父の強力なサポート役を果たした筆頭家老。その横には、俺の父の弟で家老を務める二階堂正伸が38歳。もう一人は、山田一郎太というダンディーな52歳の侍大将だ。


「あの、後ろに立っている女の子の名前は何という?」

と尋ねると、最初に出会った彼女は

「足立桃子です」と頭を下げた。

どうやら彼女は幼馴染の一つ年下の女の子らしい。とっても可愛い!もろタイプだ。


その日の晩、転生前後の出来事を忘れない様に整理してみることにした。


・天照皇大神の依頼、天下統一。

・そして、メルドキア国に打ち勝つ強い国造り

・天照皇大神と出会った時、俺以外にも2人いたけど、あの2人もこの時代に転生したのか?

・俺は会津国の当主、蘆名盛興13歳。

・今日は1560年1月8日


「1560年かー、また色々と事件が起きる時代に飛ばされたものだ…」

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