第9話 屋形船

 数日間の休息を終えたアリア、ルナ、そしてグロムは、再び旅路を進める決意を固めていた。だが、町を出る前に、町の人々から一つの提案を受けた。それは、町の川で楽しめる「屋形船」のことだった。


「屋形船ですか?」アリアはその話を聞いて興味津々だった。


 町の住人が笑顔で言った。「ええ、屋形船で川をゆったりと進みながら、夕日を眺めることができるんです。美味しい料理も出て、リラックスできるんですよ。旅の疲れを癒すにはぴったりです」


 ルナもその提案に賛同した。「静かな川の流れを感じながら、夜の景色を楽しむのも、きっと心に良い影響を与えるわ」


 グロムは少し首をかしげながらも、「食べ物が出るなら、行くに決まってるだろ!」と笑いながら言った。


 結局、三人はその夜、町の川での屋形船ツアーに参加することに決めた。夜の帳が降りる頃、町の川沿いにある小さな港に向かい、屋形船の船頭と出会った。


「ようこそ、屋形船へ!」船頭はにっこりと笑いながら歓迎してくれた。「今日は素晴らしい夜です。川の景色を楽しみながら、良い時間を過ごしてください」


 船は小さな橋をくぐり、静かな川面を滑るように進んでいった。周囲には、町の灯りが川に映り、まるで絵画のような風景が広がっていた。船の中は、木製の床と畳が敷かれ、囲炉裏の火が揺らめいていた。


「こんな素敵な場所があるなんて、思いもしなかったわ」アリアは、窓から外を眺めながら、静かな川の流れに心を落ち着けていた。


「そうね、これが一時の贅沢だわ」ルナも穏やかな表情を浮かべながら、景色を楽しんでいた。「川の音、風の音、何もかもが静かで心地良い」


 グロムは席に座ると、早速料理を楽しみ始めた。屋形船の上では、地元の特産物を使った料理が次々と運ばれてきた。お刺身や天ぷら、川魚の炭火焼き、さらには特製の酒まで。グロムはそれを口に運びながら、幸せそうな顔をしていた。


「美味いなぁ、この酒、最高だ!」

 グロムは酒を一口飲んでから、満足げに笑った。

 アリアも、その料理を一口食べてみて、「本当に美味しい…こんな美味しい料理を食べながら、静かな夜を過ごせるなんて、なんて贅沢なんだろう」と感心した。


 船はさらに進んで、町の外れに近づいてきた。川沿いの景色は、ますます美しく、夕日が川面に反射して金色に輝いている。その光景は、アリアの心に深く刻まれ、次の旅路に向けての力を与えてくれるように感じた。


「アリア、これからも続く旅の中で、こうして一息つける瞬間を大切にしないとね」

 ルナが静かに言った。

「うん、今の時間が本当に貴重だって感じる」アリアは微笑んだ。「冒険が続く中で、こうした小さな幸せを見逃さないようにしなきゃ」

 グロムも一緒に頷きながら、「そうだな、明日からまた闇を倒す旅が待ってる。だが、今はこの静かな夜を楽しんでおこうぜ」と言った。

 屋形船はそのまま進み、夜空には星々が輝き始めた。川面に反射する星の光は、まるで幻想的な世界のようで、アリアたちはしばらく言葉を交わさずに、その美しい景色に包まれていた。


 やがて、船はゆっくりと港に戻り、屋形船の旅は終わりを迎えた。だが、アリアたちの心には、静かな夜と美しい景色、そして素晴らしい料理の思い出が深く刻まれた。


「さて、次の冒険に向けて、出発の準備をしようか」アリアは立ち上がり、周囲を見回しながら言った。「うん、また新しい場所へ行くのが楽しみだな」ルナが微笑んで答えた。

「だが、次の休憩はもっと豪華にしてくれよ!」

 グロムは冗談交じりに言い、みんなで笑いながら町を後にした。

 こうして、屋形船の夜は終わりを迎えたが、アリアたちの心は軽く、次の冒険に向けて新たな力を得たような気がしていた。


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