ep.013 響の旅、新たに(3)

ばふっと布団に飛び込む。

こっちに来てから、毎日が濃密だなぁ……


ちなみに、傭兵ギルドのマスターから近場の宿屋を紹介してもらった。


『よき出会いに恵まれておるな』


タマちゃんに語りかけられる。

ほんとそうだよな。


マスターもそうだし、ルーファさんに副団長。

お姫さまの一行も、いいヤツらだったと思う。


眠気はあるが、今日のうちに明日からどうするかを考えなきゃな。


『タマちゃん、姉貴につながる情報を整理してみよう』


『そうじゃな』



まずは遊魔、魔女、そして黙示の使徒。


武御雷様は、魔を討ち祓う先で姉貴に繋がると言っていた。

これらはその“魔”、である可能性が高い。


魔女の手先が黙示の使徒で、その使い魔が遊魔?

でも、遊魔は自然発生的にも各地に被害を与えているらしい。

使徒が遊魔を操れること自体、信じられない、といった空気感だったな。


魔女のことも使徒のことも、もっと知る必要がありそうだ。



そして直接的な姉貴の手がかりの方は。

洞窟で出会った黒装束が口ずさんだ歌だ。


一番有力な手がかりだったけど……

彼女の足取りは分からず、今は遠ざかりすぎてしまった。


もっと広く情報を集めないといけない。

そうなると、文化の中心である王都へ行くのは有力な選択肢だ。



『うーん……結局、まだまだ知らないことが多すぎるって感じだ』


『うむ。やはり王都を目的地とすべきじゃろう』


ふと、黒装束の彼女の顔がよぎる。

やっぱり予想通り、彼女はアサシンのような生業なんだろうな。


なんでアサシンなんかやってるんだろ。

鼻歌を口ずさみながら焚き火にあたる、普通の女の子だったよな。


彼女はどういう経緯で、姉貴の歌を知ったんだろうか。

音楽に触れられる生活はできているんだろうか。



今は、素直に音楽を楽しめているんだろうか。



「響くーん!! おさけのもーー!!!」



バーン!!! と開けられる扉。


うおーーーーーい!!


「こちとら未成年だって!!」

「っていうかまず断りなく入ってこないで???」


「ミセイネンってなんニャ」


この人と、まさかの宿が一緒という……

ニャハハと笑いながら、人の部屋のテーブルで酒を注ぎはじめる。


「自分の部屋で飲んでくださいよもう……」


ほんと、酔うとダメダメだなこの人。

騎士団の仕事中は、カッコ良くて頼れる先輩だったのに。


「かたいこと言うニャって~~」


キャミソールみたいな危ない格好で、おっさんみたいなセリフを言い出す。


せめてちゃんとした服装で来てくれよ……

目のやり場に困るんだよ、もう。


「響くんはこれからどうするニャ?」


何気なく聞かれる。

副団長にも聞かれたことだが……そうだな。


改めて聞かれて、決心がついた。


「悩んでいたんですが、王都にいってみようと思います」


王都に行こう。いま必要なのは情報だ。

……黒装束の彼女に繋がる情報も、見つかるかもしれない。


「おー、王都かニャ。初めて?」


「実はそうなんです……旅も全然慣れてなくて」


「ニャハハ、会った時から素人丸出しだもんニャ―」


無邪気に抉らないでほしい。

コップを持ち上げ、ゴクリと飲み干すルーファさん。


俺はすばやく目をそらす。

わざとやってるのか?? 薄着なのを忘れないでくれ。


「グラステル王国が誇る“王都エストリオン”、きれいな街ニャよー」


「へええ……楽しみですね」


何気に、この国の名前を聞いたのは初めてだな。


それに王都エストリオンか。

きらきらしてそうな名前だな(小並感)


「ルーファさんはこの街で傭兵を続けるんですか?」


彼女はテーブルを離れて、ばふんとベッドに寝転ぶ。

もはや振る舞いが我が家のよう。


「うーん、それがニャ―」

「今回の事件、使徒絡みじゃないかって広まってるんだよニャ」


2回目は内密に処理したみたいだけど……

そもそも1回目の時点で騒動になっていたからなぁ。


「商人たちがすごい早さで街から離れていってる」

「当面、旅人も寄り付かなくなるかもニャ」


なるほど。

治安の悪さは人の出入りに関わるもんな。


そういう情報が出回るのは速いだろうし。

しばらくは悪循環で仕事が減り続けるだろう。


「だから、この街は潮時かニャ―って」

「あ、良かったら一緒に王都いく? 響くん」


ルーファさんは何気なくそんな事を言い出す。


「ええ? 確かに心強いですけど……」

「そんな適当に決めて――旅の目的とかないんです?」


彼女はごろりと大の字になり、んーっと体を伸ばす。

いたいけな青少年には辛いシチュエーションである。


「ニャハハ、目的なんてないニャ」

「楽しく生きていくお金さえ稼げれば」


そうなのか。

この人はなんで、この国で傭兵をやってるんだろうな。

生まれ故郷のリオル霊領を離れて……


「でも楽しくなりそうニャね」

「響くんの演奏すごいし、芸だけでも食っていけるんじゃニャい?」


「ははは……」


どうも弦楽器自体かなり珍しいらしく。

さっきも、複数の音が重なる和音の響きが、観衆からも絶賛された。


ともかく、ルーファさんとの旅はたしかに魅力的だ。


『旅の装備も、ルーファと一緒なら省けるものもあるはずだ』

『金銭面でも効率的な提案だろうな』


と、タマちゃんがいう。なるほどね。

よし。


「ご迷惑でなければ――ぜひご一緒させてください」


「おっけー、決まりだニャ」

「それじゃチーム結成を祝して、祝杯ニャあ!!」



「だから俺は飲めませんってば!!!」

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