第2話 嫁姑と女子高生と自治会

  国内が住宅不足に陥ったのは、太平洋戦争が終結した昭和20年代である。

 国は住宅供給のため昭和25年、現在の住宅ローンを融資する法律『住宅金融公庫法』を制定した。

翌年26年、国と地方公共団体が「健康で文化的な生活」を生活困窮者にも行きわたらせることを目的とした公営住宅法を制定。


 本格的な住宅不足解消に乗り出した。


 その後、公営や公団、公社住宅と、鉄筋コンクリート造りの共同住宅が数多く建設される。

 就寝と食事が同じ部屋だった従来の日本家屋に、DKが取り入れられたのは、この団地が始まりだった。


 食堂と寝室を分けた間取りのコンクリート製の建物は家族の新様式、理想の住居として人気を呼び、入居の競争率は高かった。

 高度経済成長と共に団地は増えていく。

 そして時代は流れた。


 団地の住民は老いた。

 そしてその子供たちは、団地に親を残して巣立っていった。

 今では少子化や人口の減少に伴い、当時に建てられた団地は住民の高齢化が進んでいる。


 日本の中部地方にある地方都市、天ヶ崎市に建てられた『北園和団地』もその中の一つ、築50年、5階建て鉄筋コンクリート造りの分譲団地である。

 敷地には1号棟から7号棟まで建物がある。階ごとに6つの部屋が並び、1棟に30戸の家族が住む。


 団地全ての住居総数は210。


 敷地には、住民たちが会合やイベントなどで利用できる平屋の集会所がある。

 広い面積の中にゆったりと並ぶこの建物7棟と集会所は、公共の専門業者にメンテナンスを委託し、定期的に敷地の手入れや建物の修繕が行われているおかげで、時代に遅れた外観ではあっても、小綺麗さは保たれていた。


 自治会が結成されたのは、建物の管理は業者に委ねても、団地の生活環境は自分たちで守ろうという意識によるものだった。

 自治会結成後の活動は活発に行われ、団地の中だけでなく、近隣地域との防犯活動の連携や、行政と住民の懸け橋になるなど、活動は多岐に渡る。


 そうやって、この団地の自治会の歴史は40年以上に及ぶ……らしい。


「絶対に、ぜったい怪しいですわよ!」


 学校の教室と同じくらいの広さがある団地の集会所だった。

 コの字型に並んだ会議テーブルに、14人の自治会役員たちが着席している。

 彼らに向かって老女は叫んだ。


「柳田さんの奥様、今お産で実家に帰っているんです。旦那さん一人の家に若い女が出入りしているなんて、どう考えても不謹慎です! 何も知らない奥様が可哀そうですよ、何とかしないと!」

「確かに、ワシも見ましたよ。あそこの亭主が若い女を、自分の車に白昼堂々と乗せて走り去っていきおった! 恥知らずなことこの上ない! 罪悪感はないのか」


 腕を組み、深く頷く老人。


「どうしたものでしょうね、旦那さん宛に警告文をポストに入れますか?」

「いたずらと思われてしまっては元も子もないですから、彼の反省を促すためにも、差出人は我が団地の自治会の署名を入れた正式な文書にするべきですね。これは隣人として当然の行為です」


 空気は熱い。

 お産前の大事な身体の妻に隠れて不貞を犯している夫を、自治会役員たちは本気で嘆き、怒り、同情して柳田家への介入方法を論じている。

 香坂恵は、議題が記されている手元のプリントを見た。


 今日の自治会役員会議の議題は、団地住民同士のトラブル事例、敷地の家庭菜園に、園芸用具を置きっぱなしにしている住民への注意事項。

 最寄り駅前のひったくり増加に関する住民へ注意喚起。


 この柳田家の問題は、会議スタートの18時から今まで、延々30分以上続いている。

 ……恵は、そんな光景に考える。

 これは、果たして自治会の定例会議で取り上げるべきテーマなのかと。

 どう見ても個人的問題というか、おせっかいに思える。


 だが、この自治会が持つ体質から違う見方も出来る。


「この自治会は団地の生活ルールに関する住民の自治組織だから、2号棟の205室に住む柳田さんの不倫疑惑は、公共良俗という……生活ルールというカテゴリに入っているんだろうか」


 役員の老女が、夫の裏切りを知らぬ身重の妻に、己の過去を重ねて泣いている。

 学校の教師をしていた老人は、最近の若夫婦間のモラル低下を嘆き、どこで会議は立ち止まるのか先が見えない。


 17才の恵にとって、平均年齢70代のこの中で、「その問題は当本人たちに任せて、そろそろ本来の議題にうつりましょうよ」と水を刺す勇気は出なかった。

 恵はそっと、隣の席に座る雪村鈴音を横目で見た。


 恵と同じく、今年度から自治会の役員になったばかりである。

 昼間は会社員。この会議に出席するために、前日から仕事のスケジュールを調整しているのだ。

 そんな彼女にとってこの会議は時間の無駄でしかないと、白い無表情の下で怒り狂っている。


 鈴音は、周囲から見えない角度で膝の上を指で叩いていたが、やがてそれが止まった。

 腰を浮かしかける鈴音。

 前月の会議の出来事を思い出した恵はうろたえた。

 鈴音の隣に座る、姑の雪村淑子が挙手した。


「皆さん」


 落ち着いた、朗々とした声が老人たちの議論を止めた。


「柳田さんの旦那様とその女性ですが、私も存じています。偶然、駅でお2人にお会いしました」


 おおう、と上がった声は『新たな目撃者の出現によって、柳田の有罪は確定』という興奮である。その中で淑子は、穏やかにほほ笑んだ。


「皆さんがご覧になったのは、柳田さんのお姉さまでしょうね」

「……え?」


 部屋が一気に沈静化した。


「実のお姉さんですよ。奥様に頼まれて、お産の留守の間に弟がちゃんと生活しているか見に来たんじゃないでしょうか。まあ姉弟だけあってお顔がそっくり」

「……」

「さあさ、何事も無くて良かったですわね。次の議題に移りましょう」


 淑子が手を打ち鳴らした。


 会議終了は20時を過ぎていた。


「ああああっもうあの年寄りども!」


 鈴音が吼えた。


「昔話とうんちくと自慢話と家庭菜園の野菜自慢を削ったら、会議は90分短縮出来るわ! こっちはなあ、仕事終わってから飯抜きで出席してんのよ!」

「お怒りごもっとも」


 恵は空腹でふらつきながら歩いた。

 しかし、あの『柳田夫不倫疑惑』が淑子によって消えなければ、もっと不毛な時が浪費されたに違いない。


「淑子おばさんのおかげで、飢え死にせずに済んだ……」


 それだけではない、もしも淑子が、柳田家の主人とその姉と駅で偶然会っていなければ……想像しただけでも、背筋が凍る。


「疑惑が確信に変わり、厳罰意識へと突っ走る。中世の魔女裁判って、あんな風だったんでしょうか」

「ふん、いつか自治会費で拷問用の水車や鉄の処女を買いかねないわ」


 鈴音の毒に、淑子がため息をついた。


「鈴音さん、お腹が空いて腹が立つのは分かるけど、少しは押さえなさい。恵ちゃんは仕事で忙しいお父さんの代わりに毎回会議に出ているのよ」

「まあ……私も納得ずくのことですから、これも仕方ないかなと」


 泣き喚く腹の虫をなだめながら、恵はため息をついた。

 香坂家は、娘……恵が生まれてから一家でこの団地に引っ越ししてきたが、恵の母は7年前に、恵が10才の時に心臓の病で亡くなった。


 それからも、恵は父と二人で北園和団地の4号棟304号室に住んでいる。

 団地規約では自治会の加入は自由とされていても、ここの住人である以上、加入はほとんど強制に近い。

 事実、団地の九割以上が自治会に入っている。

 自治会に入れば、役員の務めが号棟の中で輪番によって回ってくる。


 団地は1つの棟30戸あり、自治会役員とは、自分の住む号棟の自治会員代表、自治会組織と住民をつなぐ連絡役及び、世話役だった。

 今年の役員は父の番だったが、会社員の父は2年前に社内で委員会を立ち上げて長になった。通常の業務も増えて出張も多くなった。


 当然、仕事に忙殺されて自治会の活動どころではない。

 かといって、団地に住む以上は住民の暗黙の義務・自治会活動を放り投げるわけにもいかないので、娘の恵が役員の代行している次第だった。

 今日も父は、仕事の接待で帰りが遅い。


「恵ちゃんにだって、あれは青春の浪費です! しかもあんな不毛な会議、年長者への敬意が貶められます。教育にも良くない」


 鈴音は淑子の一人息子、吾郎の妻である。27才の一見クールな美人だが、毒舌は姑に対しても遠慮がない。

 恵は思い出す……先月は、自治会の新役員の顔合わせの会議だった。


 自治会の役員メンバーは老人ばかりだった。

 自治会長と副会長は、2人そろって2度目の就任らしく『20年ぶりじゃないか、おい』『また、一緒に頑張れるなあ』と張り切っていて、その他の役員も、それぞれが普段から付き合いのある関係ばかりのようで、なれ合いの空気の中で雑談が始まった。


 時間が過ぎても、昔話と芸能界と病気の話題で盛り上がっていて、今後の活動や連絡事項などの議題が中々始まらない。

 そのゆるみ切った空気に、静かに切れたのが鈴音だった。


『会議を早く進めましょう。お互い、人生には限りがあるんですから』


 半年前にこの団地に引っ越してきたばかりの新参者でありながら、しかも自分より年長の年寄りに向かって「限りある人生」と言い放つその豪胆に、大人の女の怖さを見た恵だったが、それによって起きた空気の氷結は怖かった。

 だがあの後、一番大変だったのは、鈴音の姑たる淑子だ。


「お腹空いたわね。今夜はトンカツ沢山揚げるから、2人とも一度家に戻ってから、またウチに来なさい。それから鈴音さん」


 淑子は不貞腐れ顔の嫁へ言った。


「ビール飲みたいなら自分の分は持ってきなさい。ウチには私が飲むハイボールとチューハイしかないからね」

「ポテトサラダと黒枝豆を持って行きます」


 すぐさま機嫌を直し、いそいそと自分の部屋へ向かう鈴音の背中へ、淑子が呟いた。

「分かり易くって良いわ」


 淑子の部屋は、恵と同じ4号棟で真上の部屋、404号室である。

 淑子の言いつけ通り、15分後に訪問すると、ふわりとトンカツの香ばしい匂いがした。


「お邪魔します」


 自分の家と同じ間取り、だが他人の部屋は、いつ入っても奇妙な感覚になる。

 雪村淑子は52才になる。

 20年前に夫と死別して以来、アパレルの卸売り会社に勤めながら一人息子を女手一つで育て上げた、しっかりものの隣人女性。


 そして恵にとって、母親を亡くした時に精神的な支えになってくれた女性だった。

 妻を失い、幼い娘を抱えて意気消沈した父親に檄を飛ばし、小学生の恵に家事の手ほどきをしてくれた。父の仕事が遅くなった夜、夕食に呼んでくれて話し相手にもなってくれた。


 母が亡くなってから、頻繁に出入りしているこの部屋が、恵にとってもう一つの家だった。

 この部屋は、淑子そのものだと恵は思う。

 大事にしながら、されながら年を重ねたもの。


 いつも通される和室には、年代物の欅で出来た階段箪笥があり、その段々上には淑子の趣味で集められた骨董品が、季節ごとに交代で陳列されている。

 先月はスミレ柄のマイセンプレートだったが、今月は紫陽花柄の色鍋島の絵皿と、ヘレンドのウサギのフィギュアが並んでいた。


 一枚板で出来た、低いテーブルの上に次々と皿が並ぶ。トンカツが盛られたコペンハーゲンの大皿、鈴音が持って来たポテトサラダや枝豆、冷やしトマトが藍色と萌黄色の江戸切子のボウルに、それぞれ盛られて出された。


「あーおっそろしい」


 鈴音がクリスタル製ジョッキに入ったビールを一気にあおった。


「思い出しましたよ。ゴローさんが単身赴任する少し前、2人一緒の会社帰りに団地の敷地を歩きながら、ちょっと口喧嘩になったんです。そしたら次の日の晩、家に自治会役員と称する奴らが2人やって来て、離婚を思い留まれとか、妻として夫に従え、男を立てろとか良き妻の心得とか玄関で説教されたんだわ」


「私なんか、偶然会った中学の同級生の男子と駅前スーパーの前で立ち話したら、家の郵便受けにお父さん宛の手紙が入っていたんですよ。『年頃のお嬢さんの異性関係に注意しなさい』だって。多分あれも自治会の誰かなんだろうな」


「で、その手紙をお父さんは読んだの?」

「私が読んで、そのままシュレッダーしました」


 父に読ませたら、同級生との立ち話という何の変哲もない一場面が、どんな風にねじくれてしまうか、たまったものではない。

 それだけではない。先月、学校から家に帰宅する途中、号棟の入り口にある郵便受けの前で見た光景を恵は思い出す。


 号棟の入り口を塞ぐようにして、自治会役員たちが三人で淑子を取り囲んでいた。


『雪村さん、あんた、息子の嫁にどんなしつけをしているんだ!』


 鈴音が会議中に発した『限りある人生』発言に激怒した面々だった。

 会議の発言はもちろん、鈴音がお高くとまっているだとか、目つきが生意気そうだとか、年長者を敬わない態度はけしからないとか、文句を口々に淑子へぶつけていた。


 対象は鈴音ばかりではなく、淑子の息子の吾郎にまで火種が及んだ。

 雪村吾郎は食品会社に勤務し、現在は九州の営業所へ単身赴任しているが、団地の老人たちにとっては夫婦に子供がまだいないに関わらず、そして妻が仕事を理由に、夫と別れて住んでいることも良識に反するらしい。


 男なら何があっても妻を引っ張っていくべきだが、またどうして鈴音も夫に付いていかないのか。それが夫婦の在り方だと、姑の淑子にしたり顔で、説教と忠告を投げ付けていた。


「だけど本当に運が良かった。もしもお義母さんが柳田さんのお姉さんと挨拶していなければ、あいつら本気で柳田家に介入していたわよ。炎のお節介で柳田家大炎上よ」」


 鈴音の言葉に恵は深く同意した。そして首を傾げた。


「あれ? 淑子おばさん、柳田さんのお姉さんに会っていたなら、何ですぐにそれを会議で言わなかったんだろ?」


 鈴音も同じことに気が付いたらしい。2人で顔を見合わせ、そして淑子を見たが。


「柳田さんに、お姉さんがいるのは本当ですよ」


 ぼそりと付け足した。


「昔よりは、まだマシになった方よ」


 アレがマシ? 愕然とする恵と鈴音の前で、淑子は言った。


「昔は集団生活のルールを乱したとか、住民同士で問題を起こしたとか、そんな時は本人を集会所に呼び出して、役員で取り囲んで責め立てることだってあったんだから。ま、この話題はもう終わりにしましょ。ところで鈴音ちゃん」


 いつもは姑から「鈴音さん」と呼ばれる鈴音が、ビールを飲む手を止めた。

 淑子はキャベツにドレッシングをかけながら言った。


「ちょっと前、7号棟に新しいご家族が入ってきたのは知ってる?」

「1ヵ月くらい前でしょ。団地の中に入ってきた引っ越しトラックに、江戸時代の象の通行に興奮する町人のごとく、ジジババたちが興奮していたのを憶えていますよ。今日の会議前に、役員たちがその事でワチャワチャ話をしていたのは聞こえましたけどね」


「会長に、その事で呼ばれたのよ」

「ああ、そう言えば会議後に部屋の隅で会長に絡まれていましたね。大方あの爺さん、嫁の躾がどうこうとか、私の文句をまたお義母さんに言ってるんだと思った」

「安心して頂戴。自治会の勧誘に行って欲しいって頼まれただけよ」


「7号棟なら、同じ号棟の役員の広川さんに頼めばいいでしょ。なんで四号棟のお義母さんです」

「広川さん、忙しくて時間が無いんだって」

「へーえ、超失礼ですね。現役会社員のお義母さんが、昭和の専業主婦、広川さんよりヒマって意味ですか」


 ――7号棟か。

 団地の敷地の南側、一番端の号棟だった。恵の一家が団地に越してきたのは赤ん坊の頃だが、母が生きていた頃から、あの号棟はあまり人の気配がなかった。


「宇野さんっていうの。恵ちゃんと同じ年の男の子がいるらしいわね」

「ふむ、イケメンなら嬉しいな」


 女子高通学なので、同じ年ごろの異性との出会いは貴重だ。


「そこでね、鈴音ちゃん」


 淑子の声が猫なで声に変わった。一種不穏な空気が漂い、鈴音はわずかに警戒モードに入って箸を止める。


「そこのご一家、奥さんが鈴音ちゃんと同じくらいの年齢らしくてね」

「もしかしてお義母さん。私に勧誘に行けと? このボヘミアンカットのビールジョッキと引き換えに?」

「ダメ。そのエーゲルマンはお気に入り」


 淑子が、緋色のクリスタルジョッキでハイボールをあおった。


「代打の代打を鈴音ちゃんに頼むなんて、これもまた失礼な話で申し訳ないけど、あの号棟、私イヤなのよ」

「ああ、お化けが出るから?」


 嫁に軽く打ち返されて、淑子が黙り込んだ。


「ゴローさんに聞いたことがありますよ。7号棟のどの部屋だったか知らないけど、ユーレイ出るって噂があったって」

「……」

「お義母さん、ホラー映画は好きなくせに」


 真面目な淑子の馬鹿馬鹿しい理由に、恵は笑った。


「鈴音さん、私と一緒に行きましょ。自治会のこういう時の訪問って、2人一組がお約束でしょ」

「じゃ、恵ちゃんと一緒に勧誘してこよう」

「頼むわ、鈴音ちゃんに恵ちゃん」


 姑にちゃん付けで名前を呼ばれると気持ち悪いらしい。鈴音の口が曲がった。


 2日後。

 7号棟、宇野家への訪問は夜だった。

 約束の19時。恵が外に出ると、鈴音は待ち合わせ場所の集会所の前にいた。

 夏を前にして外はまだ明るい。

 紺のパンツスーツ姿で立つ鈴音の姿に、恵は「あ、カッコいい」と言った。


「別に、勧誘に行くから着替えたわけじゃないよ。得意先回りがあってさ。会社からそのカッコのまま来た」

「何か、比べると私が見すぼらしいというか……着替えてこようかな」


 そういえば、宇野家には男子高生がいるのだ。


「美少女が何を言ってんの。普段着姿が可愛いのは十代の特権よ。行くぞ」


 北園和団地は、市の境目にある河川の堤防に沿って建っていた。

 周辺の家屋と敷地の間に門や境目は無く、住宅の区画の中に溶け込むように建っている。


 号棟は全部で7つ、1号棟と2号棟の2列を先頭に、北から南へ向かって、縦に3,4号棟が並んで整列。

 その間に集会所があり、5,6号棟、南の先端に7号棟がある。

 号棟と号棟の間は、南側に家庭菜園と芝生、北側に車道と駐車場、号棟の出入り口がある。


 敷地そのものが広いおかげで建物の間隔が広く取られ、全て日当たりが良い。

 大きく、緩やかな流れの川沿いにあり、敷地の芝生や家庭菜園が無骨なコンクリートに彩を添えて、古くも素朴な味わいがある。


 高度成長期に建てられた団地は、大都市郊外を中心に建てられたものが多く、不便な場所が多いが、この北園和団地は都市圏から私鉄で各駅停車でも約10分、そして最寄駅も歩いて10分ほどの距離しかない。


 しかも駅前にはスーパーもコンビニもあり、学校も病院もある。

 生活インフラも揃っているし、立地そのものは悪くない……けれど。


「鈴音さんと吾郎兄ちゃんは、どうしてこの団地に家を買ったんですか?」

 この団地で淑子と2人暮らしだった吾郎は、2年前に鈴音と結婚して家を出ていった。

 新居はお互いの職場に近い、新築のマンションだったらしい。


「都会のタワーマンションに住んでいたんでしょ。そっちの方がオシャレだと思うけど」


 鈴音は、恵と淑子の4号棟の斜め向かい、集会所を挟んだ先の5号棟の5階、505号室の住人だった。

売りに出されていた5階の部屋を購入し、内装をリノベーションして住んでいる。


「実は結婚前から、会社に近いタワーマンションの27階に独りで住んでいたんだけどね」

「へえ、カッコイイ」


 恵は素直に感嘆した。

 テレビや映画で見る、銀色の塔のようなタワーマンションを思い浮かべ、そこに住んでいる高校のクラスメイトの話を思い出した。

 団地にはない、エントランスに入口のロビーはホテルの様で、住民だけが使える広いラウンジやパーティルームがあり、下にはコンビニがある。


 留守の時に宅配が届いても、マンション常駐のバトラーが預かってくれるという。

 そんなホテルみたいなマンションに住んでいた鈴音の独り暮らしは、きっと都会的でお洒落な生活だったんだろうと想像したが。


「タワーマンションの高層階ってね、実はなかなか不便よ。何といっても、朝のエレベーター問題かなあ。通勤時刻は住民がこぞって下に降りようとするから、エレベーターがなかなか来なくてイライラするし、乗れば箱の中は満員電車状態。もういっそベランダからパラシュートで飛び降りてやろうかって思ったくらいよ」


「……」

「住民専用のラウンジとか、共有スペースも、使いたいときに必ず使えるとは限らないのよ。マンション住人の来客を泊められる、ホテルみたいな部屋があったんだけど、希望者が多いからいつも抽選でさ。ラウンジはいつ行っても、子供を遊ばせるママさんグループに占拠されて大騒ぎだから、結果、家の方が落ち着くわ。それで施設を使わなくなっても、共益費や設備管理費は平等よ。ずるいわよね」

「でも、窓やベランダからの眺めは良いでしょ」


「眺めは良いけど、ベランダの実用性が無くってねえ。高層階に吹く風は強いから、飛ばされる危険があるって洗濯物干すのは禁止。布団干しなんかとんでもない。もちろん植木鉢だって禁止の実用性ゼロ、眺めが良いだけじゃつまんなくてさ。で、ゴローさんと家を買うならどこにしようって話になった時、タイミングよく5号棟が売りに出されていたのを見て、どうせいつかはお義母さんと同居話が出るだろうな、それなら敷地内同居みたいなもんだから丁度良いやって。ゴローさんも結婚前までここに住んでいて愛着があるから、それが良いって買ったのよ。おかげさまでエレベーターの待ちストレス解消、休日はベランダで洗濯ものに布団も何も干しまくり、ゴローさんと一緒に朝顔の鉢にトマトにバジルと育てて、しかも土いじりを本格的にしたければ、家庭菜園があるもんね」


 夫婦でベランダ生活を満喫していたらしい。


「ああ、それなのに、ここに来て3ヵ月もしない内に、彼が単身赴任だなんて」


 鈴音が遠くを見た。


「そりゃ、毎日ZOOMで会うしラインもあるわ。メールもするし電話で話すし手紙も書いているわ。でも遠距離恋愛には変わりないのよ。私からゴローさんを奪ったあの会社、いつか火を点けてやるからな……あ、ごめん。恵ちゃんは、タワーマンションとかに憧れているの?」


「そうですね……住んでみたいなとは思うけど、本当に小さい頃からここに住んでいるから、他の場所に住むっていうの、ちょっと想像がつかないな」


 亡くなった母は、この団地が好きだった。

 家庭菜園で花や野菜を育て、小さかった恵と手をつないで、毎日川沿いの堤防を一緒に散歩した。

 堤防は春になると蓮華の花や菜の花であふれ、流れる川の下に魚影がゆらめいていた。


 浮石の上で甲羅干しをするカメ、水面に鴨がいて、水面から魚がジャンプする度に「おさかなが飛んだ」と言って、一緒にはしゃいだものだった。


「環境と、団地のレトロ感は気に入っているのよ。でもなあ、この自治会ってのがどうもね」


 鈴音が前髪をかき上げた。


「実家にいるときは町内会があったけど、それは親に任せてノータッチ、前のマンションはそんなのなかったし、私、ああいうムラ的な付き合いってのは初めてなのよね。入って最初の方は、かなりじろじろ見られたし」


 結婚して団地を出て行った吾郎が、妻の鈴音と一緒に団地に戻ってきたと、半年前の大騒ぎを恵は思い出す。

 何しろ、住民の平均年齢が70を超えた団地だ。

 子供は独立して出て行けばそれまでなのに、結婚して戻ってくるのは珍しい。しかも結婚1年目の夫婦だった。


「ねえねえ、恵ちゃんは雪村さんとこのお嫁さん見た? どんな人?」


 そんな質問を、学校の登下校で団地を歩くたびに近所の奥さん連中に聞かれた。聞いてくる中には恵が知らない人もいたが、多分淑子の知り合いでもないだろう。

 当事者である淑子はもっと大変だったようで、多くは語らないが「記者会見でもすべきかしら」そうぼやいていた。


「自治会って、どこもそんなもんかな」

「私は昔、住民同士のクリスマスパーティとか子供の日のイベントとか、子供の立場で色々お世話になりましたけど、父の代わりの役員として、こんな形で自治会と関わるとは思いませんでした」


 昔のように子供の立場ではなく、組織の一員として入ってみると見えるものは違っていた。

 恵の子供時代、団地の自治会と近隣の町内会が共同で主催するイベントも多く、学校の登下校時の見守りや季節ごとのお祭りなど盛んだった。

 だが今は少子化の波にのまれて、参加人数の定員割れが続き、不景気で行政の予算の関係もあり、イベント企画そのものも少ない。


 それに比例して、自治会の地域活動そのものが昔より減った。

 他の自治会では、美化活動やゴミ集積場の管理をしているところもあるが、北園和団地は分譲なので、施設のメンテナンスは全て住宅管理会社に委託している。

 行政とのパイプ役も、今は防犯や災害の情報はSNSやネットがあるし、特定の地域を登録しておけばアラームや情報を発信してくれるアプリもある。


 そうなると、北園和団地の自治会に、会費を払ってまで入る価値はあるのか、という疑問が出てくるのだ。

 入れば自治会の活動を頼まれる。学校の登下校の見守りなど、昼間に家にいる人の手をあてにしている活動内容ばかりだ。


 だが今は共働き世帯が多いので、人手は少なくなった。

 自治会の役員も、昔は家庭の主婦が引き受けてくれたが、今は高齢や勤めを理由に役員をしぶる人も多いので輪番制になった。

 それでも、自治会の人間関係の密度は濃い。


 分譲型なので、若い頃にこの団地の部屋を購入してから、そのまま住んでいる住民が多いのだ。そのせいで人間関係が、地域で固定化している。

 それに、自治会役員を引き受けてくれるのは、リタイアしてから暇がある人。

 そして、口も頭も達者な老人が大半だった。そうなると役員会は自然、引き受けてくれる人間も決まってきて、なれ合いになってしまう。


 中には鈴音のように、その無駄な時間と空気に辟易している人もいる。

 恵は、あの自治会の空気が怖い。

 元々北園和団地の自治会は、集合住宅に住む住民同士の暮らしのルールを守るため、自治のために結成された集まりだが、それが徐々に古参住人による監視システムの色が強くなっている。


 住民に生活の規則を守らせる、それは良いことだし、自治会の本来の役目ではあるが、先日の柳田家の一件は、どう考えても個人宅への干渉だった。

 イベントが少なくなったせいもあるのか、自治会役員のエネルギーが内側へ、住民の動向へ向かっている。


 長らく住む団地に、地元意識と愛情があるのは悪い事じゃない。

 だがその愛情が『団地の自治』という名目のもとで、生活への干渉に向かうのは、責任感と善意、隣人愛も含まれている分ねじれてタチが悪い。


「そもそも、今の世の中に自治会って必要なのかしらね」


 鈴音がぼやいた。


「子供いない、昼間は勤めに出て留守の家庭も多い。昼間は勤めが優先の現役世代にとって、自治会の仕事なんか出られやしない。地域の親睦とか近所付き合いが大事って言うなら、やりたい奴が自治会なんて名目使わず勝手にやれって。回覧板たって、別にそんなもん無くても、防犯や防災の呼びかけとか行政のお知らせなんて、ネットやSNSがあるじゃない。前に住んでいたマンション、そんなもんなかったわよ」


 以前から団地の住民である雪村淑子の息子一家という理由で、自動的に自治会員となった雪村夫妻だった。

 役員も率先して手を上げたのではなく、住んでいる5階に今年順番が回ってきたと、ただそれだけだ。自ら積極的に入ったわけではなかった。


 それに鈴音は若いだけではなく、初会議の発言と態度のおかげで自治会の中で浮いている。

 特に自治会長の白石と副会長の久代からは、自治会の和を乱す不届き者として目を付けられてしまった。


「しかし、そう思ってはいても、新参者を自治会に勧誘しなくてはならないジレンマよ……団地規約にある、自治会入会の自由とはタテマエ、実は強制だもんね」


 恵は、鈴音と一緒に7号棟の前に立って建物を見上げた。

 郵便受けを見た。5階は名前が空白のボックスがずらりと並んでいる。


「ふうん。最上階はほとんど空き室だ」

「なんでだろ。立地条件も広さも、他の棟の五階とさして違わないけど。ねー恵ちゃん、ここお化け出るって本当?」

「小学校の時、そんな噂を聞いた気がしますけど……信ぴょう性は何とも」


 世間の空き家問題は、高齢化問題と絡んで一軒家だけではなく、古い集合住宅でも問題になっている。

 この団地も210戸もある。世間の問題がここにもあって、空き室が偶然7号棟に集まっているくらいに考えていた。


「何だ、お化けも何も、フツーの棟じゃないの」


 階段を上がりながら鈴音が鼻をうごめかせた。


「ビーフシチューにしてはトマトの匂いが濃いな。ハヤシライスか」


 同じ敷地に立つとはいえ、知り合いのない号棟に入ることは殆どない。

 階段や建物の構造は同じでも、外廊下から見える風景は自分の住む場所とは違う。同じで異なる場所に、恵はパラレルワールドに立った気がした。

 宇野家は503号室だった。

 チャイムを押す。


「ごめんください」


 ドアの向こうにある人の気配に、恵が声をかける。しかし出てこないので、聞こえなかったのかと、しばらくしてからもう一度押す。

 ドアが開いた。

 出て来たのは、能面のような顔の少年だった。


「……」無機質な目に、恵の声は引っ込む。代わりに鈴音が微笑んだ。


「大人の方は、いらっしゃる?」


 少年は黙って引っ込んだ。

 玄関から突当りの部屋が一瞬見えて、すぐに男が出て来た。


「はい、ご用件はなんです」


 彼が宇野家の世帯主だ。男……宇野は視線を恵と鈴音に振り下ろし、薄い笑みを浮かべた。


「初めまして、この北園和団地の自治会の者です。私は5号棟の雪村と申します」

「姉妹?」

「いいえ、この娘は同じ団地に住む、私の友人です」

「へえ、高校生? うちの息子と同じくらいかな」


 鈴音から自治会の加入を勧められた男は、笑顔を作ってみせた。


「団地規約読んだよ。入る入らないは個人の自由、それに小さい子がいるならまだしも、息子はもう高校生だしね。俺も妻も仕事があるから、地域の集まりだって出るのは難しいし、自治会の活動とか関係ないよ。関係も必要もない集団に属するは面倒だね。月に200円も出して入ったところで、我が家にどういったメリットでもあるんですか? あなた方の自治会費稼ぎっていうメリットしか思いつかないけど」


 笑顔に随分と毒がある。

 鈴音がううむと嘆いた。

 実際、鈴音も自治会が嫌いで不要論なのだ。

 恵は言ってみた。


「メリットは、仲間意識です」

「は?」


 宇野の態度に隙間が出来た。そこを突く。


「ご覧の通り、古い団地です。住民はおじいちゃんおばあちゃんばっかりで、長年ここに住んでいる人が多いです。ですから仲間意識が強いっていうか、排他的なところがあるんです。だから、新しく入った人に対して警戒心強いし、じろじろ見るし」

「確かにね。引っ越しトラックに物凄く反応していた」


「別に迫害まではいかないけど、古いコミュニティだから新しい人を異端視する傾向が強いんですよ。そこで自治会の入会をお勧めします。ここの住民のほとんどが自治会に入会しているから、自治会に入ったってことは、この団地の仲間って意識を持っているだと思ってもらえるし、入らないよりは暮らしやすいんじゃないかな。ひと月200円の保険と思って下さい」


 鈴音が言葉をかぶせた。


「宇野さんのご職業は、販売かサービス業の方?」

「ええ、まあそんな感じかな」


「そのご職業なら、人脈は武器でしょう。自治会も一つのネットワークで人の数だから、入会しておいて損はないかも」

「……貴女、銀行か商社の営業職?」

「あら、よくお分かりね」


「良い仕立てのスーツを着慣れていて、時計も高級品。鞄も靴はデザインも良いけど、実用性と耐久性に定評があるブランドだ。ネックレスのデザインは一見控えめだけど、ダイヤは一流品。その割に、女性が一番こだわるはずの結婚指輪はブランドでもなんでもない。だけど面白いデザインだ。オリジナル?」


「夫の友人がアクセサリーの職人でして。その方の作品です。宇野さんは接客業、その中でもハイクラス相手のほうみたいね」


 宇野は、肩をすくめてみせた。


「で、自治会にはどうやって入るの? 血判でも押す?」

「こちらの申込書にサインと、それから来月分からで、200円頂けますか?」


 有難うございます、と鈴音がと鈴音は一礼した。


 7号棟の外に出ると、恵と鈴音の携帯が同時に鳴った。

 淑子とのラインだった。

 夕食を食べに来い、とある。今夜は鶏の唐揚げらしい。

 恵と、スーツから着替えてきた鈴音が揃うと、夕食が始まった。


「恵ちゃんのおかげで、宇野氏を自治会に引き入れました」

「まあ、それはそれは」

「恵ちゃんは営業トーク上手いわね。仲間意識、月に200円の保険ときたか」


 笑いながら、鈴音は遠慮なく、ショウガの香りの効いた鶏の唐揚げを食べる。


「いえ、別に……」


 小さくなる恵。


「2人に勧誘の代役を頼んで悪かったわね。で、宇野さんはどんな方?」

「奥さんがご不在みたいで、話をしたのはご主人です」

「へえ?」

「良い観察力持ってますよ。それが職業柄なら優秀な人材、女たらしなら要注意人物」


 にやりと鈴音が笑った。


「服装で私の職業を当てるだけじゃなくて、女のダイヤと結婚指輪まで見極めるなんか大したものですよ。恵ちゃんも覚えておきなよ。女の守備範囲にやたら研究熱心な男は、職業柄なら優秀、遊び人なら要注意。ハンサムなら特に警戒必須ね」


「うん、確かに……皮肉っぽさが気になるけど、顔はイイかな」

「知的で上品、繊細な美しさは、ゴローさんのほうが数倍上よ」

「私、そんな息子を産んだ憶えはないわよ」


 ドラえもんのガキ大将キャラ『ジャイアン』の大人版のような雪村吾郎の姿が恵の脳裏に浮かぶ。

 しかしゴローの性格はジャイアンとは真逆で、10才年下の恵に本を貸してくれたり、勉強を教えてくれた大きくて優しいお兄ちゃんが大好きだった。


 息子、それと連想して、あの無機質な顔をした宇野家の少年が浮かぶ。

 周辺に異性がいない女子高生活なので、恵にとって同年代の男子というのは珍獣に近い生き物だが、それでもあんな荒んだ雰囲気は、これまで男女共に見たことが無い。


 玄関から垣間見えたあの部屋も、ひどく荒れていた。

 引っ越し直後でまだ片付いていない類の乱雑さではない、空気そのものが乾いてざらついていた。

 いくら古い団地とはいっても、新居には変わりない。新しい環境、生活の始まりには違いないのだ。


 それなのに、あの家には新生活への期待という明るさが全くなかった。

 いつも部屋を嬉しそうに片づけ、風を通して花を飾り、住処を整えていた、死んだ母の事を思い出す。

 しかし、いやな感じを受けたのは住人だけじゃない。


 階段を昇る4階までは人の声や生活の匂いがあった。それなのに、5階の廊下に出た瞬間、一気に人の気配が消えた。

 住民らしい女性とすれ違ったが、立ち並ぶドアと、そのドアノブに垂れ下がる数々のガス会社の空き家メモが、どこか不吉で寒々しかった。


「奥さんと鈴音さんの年齢が同じくらいってことは、あの男の子とは血が繋がっていないってことかな」


 そうだとすると、家庭内は複雑そうだ。表面を見ただけで悪く思っちゃいけない。

 恵は、鈴音が持って来た白菜の漬物を齧った。

 鈴音のお手製という漬物は、酸味と塩気、甘みが調和した見事な味だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る