第9話
そんな経緯で本日入城3日目、結局リリアナは白シャツに薄青紫のチュニックという、女官の制服を着てマルクレン城内をぶつくさ呟きながら歩いているのだ。
「えーっと、東がエスト様で黒髪、西がオヴェスト様で金髪、北がノルド様……あれ、髪の毛どうだったっけ……、待って、南はスッド様、だけども……え、どっちが赤茶でどっちが栗毛だっけか? ダメだ、もっかい女官長に聞いてメモしとこう」
客室棟離れは、東西南北に4人の妃候補の部屋が割り当てられていて、建物の名前が令嬢達の言わばニックネームとなっている。直接顔を確認して覚えさせてもらう機会など作ってもらえる訳もなく、女官長に口頭で教えられた髪の色とともに暗記せねばならない。まだ、城内の説明を受けただけで、妃候補達を目視すらしていないのだ。
あと、気を抜くと迷子にもなる。広すぎる城内とあちこちに伸びた回廊が、わざとなのかというくらいややこしい。
やっていける自信は、最初からだが今現在もまったくない。
「リリアナさん! 女官長はどちらに?」
メイドの若い女性が、血相を変えて走ってきた。
「あ、今打ち合わせ中ですよ、今度開かれるパーティーの」
「ど、どうしましょっ」
同世代と思われるメイドの子は真っ青になっている。
「急用ですか? 今日は多分無理みたいですよ」
「り、リリアナさんお願いできますっ?! わたし苦手なんですっ」
「え」
「オヴェスト様がまた、癇癪をっ」
「また? 癇癪?」
リリアナは固まった。初仕事が、どうやらその対処になるらしい。
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