第10話

客室棟はいくつかの棟の総称であって、実際は複数の建物が回廊で繋がっている。その中の西側の離れが、くだんのどこぞの令嬢に当てられているのだ。


 リリアナは大きく深呼吸してオヴェストの部屋のドアをノックすると、侍女と思われる女性が扉を開け、そのまま中へ通された。


 令嬢が自分のところから連れてきた侍女なのだろうが、待ってましたとばかりに中へと案内された。

 よほど癇癪がすごいのかと、怖じ気づきながらもかろうじて足を動かす。


「女官長! あら、ちょっと誰よ、この子供は」


 眩しい物体が目の前に飛び出たかと思ったら、金色に長いウェーブの髪と、黄色のフリルがふんだんにあしらわれたドレスを着た綺麗な女性だった。


「オヴェスト様、申し訳ございません。ヴェラ女官長は只今外せない用事の為、補佐の私が参りました。リリアナと申します」


 何度も女官長に、鬼のようにしごかれた礼の形を取り頭を上げた。しかし、オヴェストはその綺麗な顔をしかめている。


「聞いてはいるけど、子供だとは思わなかったわ。人手不足なの?」

「いえ、私、18歳ですけど」

「まあ、やだ」


 何故かクスクス笑い始めた。


「どちらからいらしたのかしら。あなたの田舎ではそんな歳で、その髪型ですの?」


 ねえ? と言うように、周囲の侍女達に目配せして、ホホホと笑っている。


(やな感じだな、おい)


 私の出身はともかく、ビアーノは中心部のいわゆる都心だ。この三つ編みスタイルは確かに子供がする髪型だけども、これが一番髪の毛が邪魔にならずに仕事へ集中できるのだ。一度野菜の皮剥きやら拭き掃除やらやってみるがいい。

 とは、言えない。

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