第7話
「リリアナ殿には、女官補佐の仕事に就いていただきたい」
「女官、補佐?」
まったく耳慣れない言葉に首を捻った。
「我が国の王太子のことはご存知でしょうか」
「えーっと、すみません、あまりよくは」
興味がないのではない、何も知らないだけだ、住む世界が違いすぎて。
だが何故か、失礼に値するかと思われた素直な反応に、目の前のチェルソンはむしろ微笑んでいる。
「おお、そうですか。それはやはり、適任でございますな」
「そうなんですか?」
「ジルベルト殿下は現在25歳でございます。我が国では30歳までに妃をいただき、王位継承という古くからの伝統がございまして」
「ほえー」
「各領地から4名のご令嬢を、名前を伏せた状態で、引き合わせ公平に妃を選ぶという。これが長年、内乱や衝突を避けるのに最適な手段として、行われているのですが」
「へー、そうだったんですね」
「現在、まさに、その“懇親の期”でございまして、由緒正しき四家から令嬢を客室棟に招いております。そこを取り仕切る女官長の補佐についていただきたい」
仕事の内容はなんとなくわかったが、何故、一般市民である自分が適任なのかがわからない。
「あのー、間違ってたらごめんなさい。城内で働く方々は、それなりの身分のかたでないと、ですよね?」
「左様です」
「私が何故、選ばれたのでしょうか?」
もしかして自分は、孤児院に預けられていたが実は、それなりの名家の隠された令嬢だったとか、四枠は埋まってしまっているが女官として忍ばせて私が妃の本命候補だったとか、楽しい展開が待っているのだろうか、とリリアナは若干前のめりになった。
「どこの家ともまったく繋がりのない、公平な立場の者を探しておりまして」
「……まったく?」
平民でしかなかったようだ。
「名目上は女官補佐なのですが、もうひとつ、わたくしとの間だけでのお願い事がございまして」
「はあ」
「4人の令嬢の中から、王太子殿下に相応しいと思われる人物を、公平な立場から選んでいただきたいのです」
「……」
リリアナには、まったく旨味のない上に重要にもほどがある仕事内容であった。
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