第6話
ポツンとひとりにされて、なんとなく部屋を見渡す。部屋といっても広い。奥には艶やかなベールが綺麗に弧を描くように吊るされていて、どうやらそちら側から城の誰かが出て来る、謁見の為の場所なのだろう。
天井はステンドグラスで室内はとても明るい。
女将に報告する為にしっかりと部屋を見渡し、椅子やテーブルの装飾を確認していると、ザワザワと人の気配が奥から届いた。
ベールの奥から現れたのは、正装なのか青のサーコート姿のニコーロと、同じ格好の数人の騎士。そしてひとり、刺繍が施された濃紺のローブを羽織った中年の男性だった。
いつも酒場で会うニコーロのイメージとは違って、真面目な表情でテキパキとした動きに、リリアナはこの中年の男性の身分を高く見積もることにして喉をゴクリと鳴らし直立した。
「閣下、こちらが酒場『ビアーノ』で働いていたリリアナ嬢でございます。大変真面目に働く優秀な若者でございます」
とても誉められた気はするのだが、ビアーノが過去形になっていたのが気になる。まだひとつも仕事を受けるとは言っていない。
「あ、あの、私、ビアーノで現在も働いているリリアナと申します。あの、よくわからずここに来ております」
緊張はするが、言うことだけは言っておかねばと、日頃の商魂が無意識に発動する。
「やあ、リリアナ殿、よくぞおいでくださった。ニコーロから聞いております。真面目で仕事熱心な働き手を探していましてね。リリアナ殿が適任だと、強く推薦しておりましたよ。申し遅れました、わたくしはチェルソンと申します」
閣下と呼ばれていた男性は、威圧感もなくにこやかだ。予想していたより怖い人でもないらしい。端から平民を見下す態度に出られたら、ソッコー断ってやろうと思っていたが、もう少し話を聞いてみることにした。
「あのー……、私はいったい、何を?」
「失礼いたしました。余り大きな声で言えることではないもので」
「え?」
これはやはり断り文句を何パターンか用意しておかねばとリリアナが悶々としていると、目配せを受けたニコーロと他の騎士達は静かに部屋を出ていってしまった。
(こ、これは、門外不出の案件なのかっ。え、私、ここから出してもらえるのっ?!)
今度ばかりは、ゴックンと大きな音で緊張が喉を通った。
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