第5話
いくつか出島のように内庭にせり出したサロンを通りすぎ長い廊下の客室棟を通り抜ける。
もちろん客人ではないリリアナは、部屋に案内されることはなかったが、その奥のメイド専門の詰所にも案内されず、またまたさらに別の長い通路へと誘導される。
明らかに困惑を通り越して挙動不審になっているリリアナを見かねて、先導者の紳士は一度足を止めた。
「本来なら正面からご案内させていただければ、ここまでの距離にはならないのですが、今後のこともありますので、こちらからの往来を覚えていただこうかとご提案がありまして」
「はぁ……。あの、私、いったい何をさせら……させていただくのでしょうか?」
「申し訳ございません。わたくしも詳細のほうは」
綺麗にスルーされたようだ。
リリアナの心中ではすでに、謎の仕事を断る為の言い訳があーだこーだと飛び交いだした。今断ってもいいのだが、女将の熱心な“見学”というワードが、いつの間にかリリアナを洗脳している為、しばし辛抱することに。もちろん結婚相手の件は、まったく引っ掛かってはいない。
広い廊下は天井までも高く、要所要所に絵画や彫刻が施されている。
発光石も大粒のものが揃っていて、装飾をよりいっそう美しく映えさる。
大きなホールに出れば、人間よりもはるかに大きなタペストリーが飾られていて、絨毯にもシミひとつない。
「リリアナ殿、こちらでお待ちいただけますか」
先導者に言われるまま、ホールからまた別の枝分かれした廊下を少し入った先の部屋に案内された。
(や、やっと、どこか目的地に辿り着いたっ)
リリアナ的には、仕事でよく動き回っているしまだ若いし、と思っていたのだが、やはりどことなく緊張もあったのだろう。ヘロヘロと許可も得る前に目の前の椅子にすがりついた。
「どうぞゆっくり休憩してください」
紳士な先導者は、にこやかな笑顔で部屋をあとにした。
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