2話 マルクレン城
第4話
リリアナの口は終始開きっぱなしだった。
比較的中心部に住んではいたが、城は遠くから眺めるものであって、大きな堀に架かる立派な正面大橋の上を通ったこともなければ、左右に点在する欄干の上の彫刻を目視で確認したこともない。
真っ正面のそびえ立つ時計台兼城門をくぐる。馬車の窓枠からずっと顔を出していれば、景色は二転三転していく。
今度は緑色が眩しい庭園のような場所を通っていくが、どうやら庭ではなくまだ正門前であったらしい。
いい加減、開きっぱなしで口内が渇ききったところで、馬車は止まった。
どれだけの歳月がかけられたのかわからない、縦にも横にもひろがる煉瓦の壁に圧倒されつつ、案内されるがまま馬車から降りて徒歩でどこかへ向かう。
さっきまでは多分、来客や来城者の為の正面エリアだったのだろうが、どんどんとそこから離れていくようだ。
どこまでも続く立派な庭園は、先ほど入り口で見たものより鮮やかな花が植えられていて、不安でありつつも気分はあがる。今までにこれだけの量の花を一度に拝んだこともない。
その庭園の向こうに巨大で円形状の建物が見えてきた。
「こちらは、迎賓館と呼ばれる大広間です。この奥に客室棟、その先に離れがございますので、リリアナ様はそちら2棟でお勤めしていただく予定です」
「客室棟と、離れ……」
(つまり、メイドみたいなものだろうか。でもそれって、難しい?)
首を傾げながらも大人しく先導者についていく。
大広間横にも立派な出入り口があるが、そこからズドンと真っ直ぐ横幅の広い通路が奥のほうまで延びている。
まさかこれを歩くのかと、ほどよい酒場サイズでしか生活したことのないリリアナは不安を覚えたが、やっぱり歩いていくこととなった。
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