第3話

他人の夢の話ほど退屈なものはない。

どっかの誰かがいった言葉だ。

これから私は世にも退屈な自分の夢を語ろうと思う。

ちなみに初夢だ。

初夢とは1月1日から2日にかけて見る夢だ。

私の不運で不機嫌な新年を占ったかのような、初夢。

夢のなかでは私は「私」でも「俺」でもなく「自分」だった。


暑い。照りつける日光と砂埃。自分は真夏のグラウンドで素振りをしている。

試合終わりなのか、常道小学校の野球部のユニフォームを着ている。ユニフォームは薄汚れている。グラウンドのバックネット前で素振りをする自分とまだ髪の毛があった時代の親父しかいない。

あとは砂漠のように広い地面と空と日差しだけだ。

親父が、野球帽をかぶって仁王立ちして檄を飛ばしている。

「ユウトーーー!!もっと真剣にやれーー」

暑くて苦しい。まだ水を飲ませないバカな体育会系が蔓延っていた時代か。

「ユウトーーー!飛べー!飛べー!」

親父の檄がワケがわからなくなってきた。

飛べとは?

しかし夢の中の小6とおぼしき自分は、何も疑問に思わずバットを振りながら飛ぼうとしている。

どうやって?!

バットを止めずにぐるぐると回して遠心力で少し浮こうとしているのだ。

足をバタバタさせると一瞬だけ浮いたような気がする。

だけどすぐバットは回転しなくなってただの重い塊になってしまう。

親父が顔を真っ赤にして、足を踏みならしている。「ユートーー飛べ!飛ばないとーー!」

飛ばないとどうなるのだ?

「ユウトーーー!ユウトーーー!!」

真っ赤な親父の顔がボコボコと煮だったかのように崩れはじめた。踏みならしていた足が土塊になってボロボロとグラウンドに落ちていき、親父は小さく崩れながら、世にも恐ろしい顔で叫び続けている。

「ユウトーーー!ユ、トッ…ト、ト、トべ、ト、トバ、ユ…ト」

ついに煮えたぎっていたかのような顔まで土塊になり親父はグラウンドの土山になってしまった。

飛べ、飛ばないと、ユウト。

自分は親父の最後の言葉を守ろうと、必死でバットを振り回して飛ぼうとしている。グルグル、グルグルと。

暑すぎる。

ピーピーピーピー

耳障りな音。だがなんだか聞きおぼえがある音だ。

だんだんと意識が戻ってくる。

自分はグルグルしながら、今の自分の体に戻ってきていた。

暑さが和らいでいる。

喉の渇きが酷い。

体を起こすと炬燵の中で、真後ろに置いてある灯油ストーブが、灯油切れでピーピーいっていた。

「喉、がわいた…」

つぶやくと母がドンと炬燵の上に水が入ったコップを置いてくれた。

「ゆうくん、寝てらうちにもう12時過ぎてまったろー」

1月1日から1月2日になっていた。

これが私の初夢か。

コレは6年生の夏の学校対抗試合で負けた後の記憶だ。

もうコーチの話も終わって、メンバーも他の父母もとっくに帰ったあとだ。

自分だけ、残されて親父に素振りを強要されていた。

親父のスパルタにはウンザリだ。

やりたくもない野球でむちゃくちゃ苦しまされたせいで、色んなことが狂っちまった。

そして俺の人生はメチャクチャ残念な仕上がりになってしまったんだ。

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