第7話
今日はすごいミラクルラッキーデイだ。誠司くんといっぱいお話をしてしまった。
中学校に入ってから、私達を引き裂くようにクラスがふたつも存在してて、よっぽどのことがないと会話なんてできりゃしないんだから。ああ、小学校のときなんて授業中ももちろん放課後すらサッカーやドッジボール一緒にやって近くで拝めてたのに。四六時中、拝み放題だったあの頃が尊い。
「お前とはほんと、会話ができない」
ほら、誠司くんも嘆いていらっしゃる。もうツンデレなんだから。態度と言葉がチグハグとか、どんだけ不器用なの。
「ねえ、誠司くん。付き合ってください」
「無理」
「付き合うって、ちょっとそこらへの意味じゃないよ? 男女としてのお付き合いだよ?」
「だからそれが絶対無理」
人間の男心は複雑だ。
野良猫のジャムだって、一年経てばゴロニャン状態になってくれたのにな。
「おい、貸せ」
「ん?」
ツンデレ誠司くんが立ち止まって右手をこちらに伸ばしている。まるで王子様がシャルウィダンスと誘っているようだ。どうしよう、私、踊りに自信がない。
「さっきからゴミ箱、引きずっててゴリゴリ音がうるさいんだよ、貸せ」
プラスチックとはいえ、大ぶりのゴミ箱は背の低い私の半分もあって、ちょっと重い上にその絶妙の高さで持ち上げ歩き続けるには腕がパンパンになるのだ。思考に励んでいるうちに引きずってしまっていたようだ。
誠司くんは私からゴミ箱をブン取ると、大きなゴミ箱ふたつを両肩に背負うようなかたちで持ち上げ歩き出す。
「惚れる」
誠司くんだって、私とたいして身長は変わらない。ていうか男の子にしては低いと彼のコンプレックスでもあるくらいだ。それなのに軽々とふたつを持ち上げてスタスタと歩き始める。それよりもゴミ箱のせいで誠司くんのうしろ姿が見えなくなってしまった、どうしよう。
「頼むから、心の声を漏らすな」
真横に並べば、チラリと流し目をくらってしまった。サラサラの前髪の奥から覗くその瞳はさっきより棘がなくて、呆れられてるようにも見える。
「一応念のためお伝えするけど、今は惚れてないの意味の“惚れる”じゃなくて、これ以上惚れさせてどーすんの、の“惚れる”だからね?」
覗き込むように訴えれば、誠司くんはまたピタリと足を止めてしまった。
目の前には外階段だ。ちょうど降りてきた上級生達がクスクス笑いながらすれ違う。
誠司くんの顔が、いや、耳まできれいに真っ赤になっている。
グリンとこっちを睨んで、何か言いたげに唇を開いたものの、なにも発することはなく、無言で階段を上がりはじめてしまった。
まるでゴミ箱が階段をノッシノッシと登っていくようだ。さすがに横並びは諦めて、落ちないようにうしろから支えることにした。
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