第6話

「じゃあ、また後でな」

「はい、先輩」


 話が終わったようだ。手を軽く上げる先輩に対して、誠司くんはきれいにお辞儀をしている。先輩の姿が見えなくなってやっと校舎へ歩きはじめたから、そのままうしろについていった。


「おい」

「はい?」


 誠司くんはスタスタと大きなゴミ箱をものともせず歩いていたのに、すぐに止まって振り返ってくれた。

 相変わらず、慣れる気のない逆毛状態の猫みたいに私をムスッとした表情で見ている。かわいい。ふんわり柔かそうな頬をさらに膨らませるようにしている、ああかわいい。


「いい加減、俺のストーカーを卒業してくれ」

「え? ムリ」


 音が鳴りそうなほど誠司くんの首がガクンと落ちた。


「なんなんだよお前ほんとに……」


 うなだれたまま、手のひらを顔に当てて嘆いていらっしゃる。


「とりあえずさ、立ち聞きとかやめてくれ。しかも視界にしっかり入り込む立ち聞きとか、アホなのか」

「安心して。まったく何も耳に入ってないから。誠司くんを拝むことに集中しすぎて、聴覚が機能してなかったから」

「……ああそうかい」


 誠司くんはふらりとした足取りで、再び校舎に戻りはじめた。すぐあとをついていく。

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