第4話

「やっぱり、告白しかないよね」


 箒の柄をギュッと握りしめ決意をあらたにしてみれば、すぐ近くにいた我が友、筧美乃里かけいみのりちゃんが速攻反応した。


「やめときな」


 美乃里ちゃんは制服の白シャツが眩しいほど健康的に肌が焼けている。ポニーテールを揺らして少し細目の瞳をさらに細めて、眉根寄せていた。


「木っ端微塵が目に見えている」


 美乃里ちゃんは小学校で私が告白して盛大にフラれたのを大っぴらに覗き見しているので、諭す言葉に迷いがない。


「でも私、誠司せいじくんと土曜日も会いたい」


 美乃里ちゃんに向き直って、真剣に訴えたのに、真横に結ばれた口元からは相変わらず容赦ない返答が戻ってきた。


「部活で、覗きまくってるでしょうが、土曜日も」

「……」


 なぜバレてるんだ。

 美乃里ちゃんはバスケ部で、誠司くんはソフトテニス部。そして私は美術部なのに。

 美術室のあるグラウンド側の校舎三階からは、ちょうどテニスコートが見おろせるという、その立地のよさで入部した下心がバレていたのか。


「奇妙な顔してるけど、バスケ部がずっと体育館で活動してると思ったら大間違いだよ。外練の時に、三階の窓から落ちそうになるほどテニスコート覗いてる千香子なんて、しょっちゅう見てるわ」

「……なるほど」


 今度から気をつけよう。


「だけどね、見るのと会うのとじゃ、違うじゃん? 私は誠司くんともっと親密になりたいの。せめてもうちょっと、懐いてほしいかなと」


 そうなのだ。一方的に見てたってなんの進展も起きないのだ。私はもっと誠司くんのことを知りたいし話したいし、なんだったら私のことを好きになってほしい。


「千香子。峯森みねもりは猫じゃないんだからね。懐く懐かないのあたりもすでに問題発言だけど、あんたの一番の敗因は、峯森餌付け作戦決行した前科があることだからね」

「あ、うん」


 もう忘れてほしいそれ。小学校卒業までの短い期間、焦りまくって毎週土曜日に誠司くんの家にお菓子を持っていって、「俺は猫じゃねー!」と怒らせてしまった“思い出”と書いて“失敗”と読む一ページを。

 そして気付かれてはいけない。今もなお、近いことを行っていることを。大事な友達、無くしてしまう。


「えーっと、では、私、ゴミ捨てに行ってこようか、な?」


 気取られ悟られないように、笑みをしっかり浮かべつつ箒を美乃里ちゃんに渡すと、ゴミ箱へ向かった。

 ずっとジト目で見つめられたままだったけども。

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