第3話

「うっそ、コクったの?」

「付き合うことなっちゃった」

「えー! すごい!」


 中学生になると、途端にこの手の話があちこちで勃発する。

 給食を終えて掃除時間。手に箒を持ったまま、彼女達の手は完全に止まっている。仕方ないので、いつもより倍速で箒を動かす、耳だけしっかり傾けて。


「土曜にデートするんだぁ」

「どこいくの?」

「えへへ」


 幸せなオーラが甘い匂いになって、プンプン漂ってくるようだ。パンケーキに遠慮なくシロップたっぷりかけた、あの幸せな甘い匂いだ。


「毎日一緒に帰るだけでも嬉しいんだけど、やっぱりデートは特別嬉しい」

「そうだよねー。いいなー」

「いつだっけ? 何年か後に、でっかい遊園地できるじゃん?」

「その頃にも一緒に行けたらいーなー」


 やっぱり“付き合う”っていうものは、とてつもなく男女の団結を強くするらしい。だって、学校以外の場所でもわざわざ時間を作って一緒にいる、ということなんだ。それってすごくない?

 A組の私が、不自然かつ無理矢理に用事を作ってB組へ行かなくていいんだよ。偶然を装って廊下ですれ違わなくていいんだよ。部活の時間のほとんどで、テニス部覗かなくていいんだよ。

 だって、土曜日にお互い約束してデートに行くんだから。

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