第2話
レイナの手足には人工筋肉が埋め込まれており、機械の強度と人間のしなやかな動きの両者を備えていた。そんな右足から繰り出された蹴りでも、カオス・ゴリアテはダメージを受けている様子はなかった。
その時、上空からヒューと風を切る音が聞こえた。
「空中から援護か? 搭載しているのは……スタンドアローンの核兵器か? まあ、発射はできまいがな」
カオス・ゴリアテは醜い顔を歪め、あざ笑うように空を仰いだ。視線の遥か先には、戦闘機が5機、円を描くように旋回していた。翼の下にミサイルが固定されていたが、発射される様子はなかった。
「説明してやろう。これは、千回以上やってきた儀式。俺の説明を聞いて、生き残ったものはいないがな」
アッシュは、カオス・ゴリアテをにらんだまま、レイナに無線通信を送った。
「奴にしゃべらせてやろう。時間稼ぎになる。観察できる時間は、長いに越したことはない」
「そうね。隠し玉が使えるのは、1回きりだし」
「100秒――これがお前ら、いや、人類に与えられた時間だ。俺の守り神は、ここにある心臓『ハートビート・クリスタル』」
カオス・ゴリアテは、左胸を拳でドンと叩いた。
「クリスタルから発せられる信号が100秒間停止したら、世界中の核ミサイルが一斉に発射される。人類の終わりだ」
アッシュは磨り潰すほどに歯をかみしめながら、カオス・ゴリアテを鋭く睨みつけた。
戦闘機が、火力を向けることができない理由はそこにあった。カオス・ゴリアテの心臓部「ハートビート・クリスタル」からは、特殊な信号が発せられており、その信号が100秒間途絶えたら、世界中の核ミサイルが即座に発射されるのだった。
「ロシアで武器開発に携わっていた俺は気付いてしまったのだよ。俺を殺せば、核爆弾が発射する仕組みを構築すれば、我が命は安泰。それどころか、どんな要求でも聞くしかなくなるってことにな。ロシアのソフト技術は貧弱だから容易かった」
カオス・ゴリアテは高らかに笑い声をあげて、演説を続けた。
「ロシアの核兵器を見せネタに、他国の核兵器の制御を奪うのは難しくなかった。発射のトリガーは俺の命のみ。核の抑止力がなくなった世界は、どんな住み心地だ?」
「ハートビートの暗号化アルゴリズムは解読が進んでいる。間もなく解除できるわ」
「本当にそうか? では、先日の中国の爆発は何だ? 無理に解除しようとして、爆発したのではないか? ハートビートを遮断し、解除しようとして、100秒以内に完了せず失敗した……そうだろ」
レイナは反論できず、言葉を詰まらせた。
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