コード・ブレイカー

松本タケル

第1話

「アッシュ!」


 女性の金切声が響く空を切って、男性の体が高速で吹き飛ばされた。


 巨漢と呼べる体躯が一直線に切り立った岩へ激突し、砂塵を上げてめり込んだ。同時に、地響きが大地を揺らす。


――モハーヴェ砂漠の中央。


 カリフォルニア州、ネバダ州、アリゾナ州、ユタ州にまたがる大砂漠の中央で繰り広げられている戦いは、1時間以上も続いていた。


「弱い、弱い。その程度の戦闘力で、この俺を倒すつもりか。準備不足、はなはだしい」


 地面から岩肌を見上げていたのは、こちらも巨大な男だ。アッシュを殴り飛ばした拳を軽く回していた。


 人造人間――初めてその姿を見る者は、そう思うだろう。


 体のあちこちから露出した配線が、クネクネと生き物のようにうごめいている。3メートルは下らない全身は鋼鉄で覆われ、金属板や鈍く光る電子パネルが鎧のように組み合わさっていた。関節部分は油圧式ポンプのような構造が見てとれ、動くたびに小さな火花を上げていた。


「まだ、これからだ。カオス・ゴリアテ」


 アッシュは、めり込んだ岩から体をくねらせて脱出すると、ビルの3階ほどの高さから地面に降り立った。


「なあ、レイナ。俺たちが、負けるはずねーよな」


「もちろんよ、アッシュ」


「その醜いツラ、ファンタジー映画だけにしておけ。この、人造ゴブリン野郎!」


 カオス・ゴリアテは、ぎょろっとした目が左右に大きく広がり、鼻は豚のように潰れている。口元には唇らしきものはなく、歯がむき出していた。


「お前らも同じ、人造人間ではないか」


 カオス・ゴリアテは、目に埋め込まれたセンサーを赤く光らせてアッシュに突進した。剛腕を振りかぶる。すさまじい速度で巨大な拳がアッシュにヒットした。


「へへ、力は互角。さっきは、弱いふりしただけ」


 アッシュは踏みとどまり、拳を両手で受け止めていた。


「ぐふぇっ」


 次の瞬間、カオス・ゴリアテの巨体が激しく飛ばされた。側面から、レイナの鋭い蹴りがヒットしたのだ。


「よそ見してて、いいの?」


 レイナは、空中で一回転して、華麗に地面に降り立った。


 彼女の外観は、人間らしいプロポーションを保っているが、全身が金属と合成素材で構成されていた。醜い外見のカオス・ゴリアテに対して、レイナの体は流線的で彫刻のように美しい。まさに、人とメカが融合した「機械の女神」だ。しかし、その顔立ちは、女神と呼ぶにはまだ幼さが残る10代の少女。


「忠告、感謝する。俺も油断した」


 カオス・ゴリアテは、巨体に見合わないほど軽やかに立ち上がる。

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