第2話 続々登場⁉ 最強の騎士《白騎士十二神将》

#1

「お~い、佳賀里~ィ? いい加減、起きろよな」

 何を思ったか朝の七時にしつこくあたしの部屋の窓をノックしてくる銀河。

 眠気眼を擦りつつ窓を開けたあたしは、すでに身支度を整えた銀河のことをムスッとした表情で睨む。

「ふぁ~あ……何よ、朝っぱらから? お休みなんだからゆっくり寝かせてよね? 朝が弱いの知ってるでしょ、あたしが?」

「そりゃまあな? お陰で毎朝お前のことを起こす俺が苦労させられてんのも知ってるだろ?」

 うっ⁉ そ、それを言われると……。

「はぁ……羨ましいぜ、甲斐甲斐しく世話焼いてくれる幼馴染みの存在が? 一昔前のアニメみたく俺も毎朝幼馴染みに起こしてもらいてぇもんだな」

「わ、悪かったわね、理想の幼馴染みじゃなくて‼ って、って言うか、そんなのフィクションの中だけよ‼ 実際はベランダ伝いに隣の家に侵入したりする娘いないわよ‼ 「武装闖入ぶそうちんにゅう」じゃない、そんなの‼」

「……自衛隊か何かか、その幼馴染みは? それを言うなら「不法侵入」な」

「わ、分かってるわよ、そんなの。あんたがちゃんと知ってるか試してみただけなんだからね」

 ちなみにあたしの家、焔城寺家と銀河の家、金剛院家はお隣通しだったりする。両親共に知り合い通しらしく結構家族ぐるみに付き合いを持ってるのよね。

 お陰で勝手に許嫁にされたり、部屋を窓越しに隣り合うように調節されたり……何よ、このラブコメ設定は。

「それで? 今日は何の用があって貴重な休日の朝っぱらから叩き起こすのよ? くだらないことだったら承知しないからね?」

「出かけるぞ? 一緒に来い……いいや、俺に付き合ってくれるよな、佳賀里?」

「……はっ、えっ⁉ ちょ、ちょっと待って⁉ そ、それってまさか……」

「ああっ、そのまさかだ。頼む、今日一日付き合ってくれ」

 この真っ直ぐにあたしの瞳を見詰めてくる真剣な眼差し……ま、まさか、デートとか言うんじゃ。

 う、うぅ……そ、そりゃ確かに最近はバイトや学業が忙しくてデートする機会なんてなかったし、お互い正式に交際してるんだからデートだって……ま、まあ、どうしてもって言うんなら付き合ってあげないことはないわよ。

 あげないことはないけれど、心の準備ってものがあるでしょうが。

 よりにもよって当日の朝にいきなり電話で叩き起こして言ってくる、普通⁉

 当日を心待ちにしてルンルン気分で服を選んだり、デートコースを考えたりしてるのってあたしだけだったの? 不意打ちにも程があるでしょうが。

「……付き合ってくれ。メイの買い物に付き合ってくれ」

「は、はあ……?」

 メイの……メイの買い物?

 メイってあの娘よね。昨日、事務所に乱入してきた中二全開の娘よね。真金さんや護銅さんの娘って意味の姪じゃなくてメイよね……。

「いや~、実はな? 昨日お袋に言われたんだよ、「居候するのなら相応の準備があろう。その上、学校にも通わねばならん。お主が連れてきたのじゃ、責任もって面倒見てやれ」ってな? だけど、俺じゃ女のことはよく分からねぇからよぉ」

 ……本当、分かってないわよ、あんた。乙女心ってものがまったく分かってないわよ。

「この馬鹿ァア‼ そう言うことは真金さんにでも頼みなさいよね‼」

 ピシャリ……。

 それだけ吐き捨てたあたしは、容赦なく部屋の窓を閉めた。

 本当何なのよ、人を朝っぱらから叩き起こしておいて……信じられない‼

「えっ⁉ お、おい、佳賀里⁉ 何怒ってんだよ、お前⁉ 意味分かんねぇぞ?」

「ええええっ、そうでしょうねそうでしょうとも。あんたみたいな鈍感野郎に乙女の気持ちは分からないでしょうね‼」

 突如として閉められた窓をこじ開けようとする銀河だけれど、あたしだって負けてはいられない。こんな鈍感野郎に一瞬でもドキッとさせられた五秒前の自分が恥ずかしいわよ。

「あっ⁉ も、もしかして、出かけるぞって……デートにって誤解させちまってたか、俺⁉」

「ふ、ふんっ‼ そそ、そんなわけないでしょ、己惚れてんじゃないわよ、馬鹿‼ 誰があんたなんかと……あ、あんたなんかと……」

「わ、悪かったよ、佳賀里? 来週はお前とデートしてやるから、なっ? 今日のところは……」

「しつこいわね‼ そんなんじゃないって言ってんでしょうが‼ だいたい、デート「してやる」って何よ、「してやる」って‼ あたしとのデートは仕方なくするものだったの‼」

「い、いや、悪かった、訂正するよ‼ 来週はどうか俺とデートしてください、佳賀里様‼」

「そ、そう……? ま、まあ、仕方がないわね。そこまで言うんだったら特別にデートしてあげないこともないわよ?」

 う、うふふっ……思いがけず久々のデートに漕ぎ着けちゃったわね。当日は何着て行こうかしら? 今日の買い物で銀河に選ばせるのも悪くないかもね。

「……それで? メイの買い物って何を買いに行くのよ?」

「あ、ああっ……聞いた話によると服も何も持たず、身一つで人間界に来たらしいからな。まあ、衣類や勉強道具一式……それに……各種小物ってところか? 布団や歯ブラシなんかは家に予備があるだろ?」

 ようやく、窓が開いたせいかほっとした様子の銀河は指折り数えて思考を巡らせる。

 ……それはいい。それはいいんだけれど、さっきから気になってることがあるのよね。

「ねえ、肝心のメイはどうしたのよ? あの娘の買い物って言うくらいだし……あの娘も一緒に行くんじゃないの?」

「ああっ、メイならその辺散歩してくるって……」

「……ク~ッフッフッフッフッフ~ッ……」

 ちょうど、その時だ。我が家の裏庭からあの中二全開の笑い声が響いて来たのは。

 ……って裏庭ぁあ⁉

「「ま、まさか⁉」」

 顔を見合わせたあたしと銀河は、どちらからともなく声のした方へと駆け出していた。

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