我が家の招き猫

紅莉

我が家の招き猫

 年の瀬。一年の中で、一番忙しい時期と言っても過言ではないであろうその時期は、私も忙しい。すっと通る隙間風に体を凍えさせながらも、暖かいこたつでぬくぬくと過ごすのが通例だったのだが、今年はそのこたつもなく。

 その代わり、と言って用意されたのは床暖房。

 去年、「寒すぎて無理!」なんて言った家族のおかげで、これを導入するに至ったのだが……まあ、確かに快適である。


「でも、あの布団のぬくもりが無いのは寂しいですね」


 家族の言うことに、確かにな。と思う。だが、いつでもどこでもこの暖かさがあるというのはやはりいいものだ。

 ぬくもりを堪能している間にも、忙しく部下たちは動く。それを横目に、監視するのは上司である私の役割。一声出せば、部下たちは私にご飯をよそってくれる。なんて素晴らしいんだ。

 宴もまもなく終わり、皆が時計に釘付けになる瞬間。私には仕事がある。カウントダウンも始まり、時計とテレビに魅入っている間に、所定の位置へ。


「今年も一年、良い年にしよう」


 干支からは外れてしまった私の、一年最後で最初の大仕事である。



【短編】我が家の招き猫



 一声鳴くと同時に、暖かい部屋、鏡餅の上で丸くなったのを、部下に笑いながら写真を撮られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

我が家の招き猫 紅莉 @Lidy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ