第9話
俺と凛子は、校長室に呼ばれて激しく怒られた。素人が、勝手に応急処置をしたことによるものであった。
ただ、最後に一言、凛子の応急処置のお陰で、綾瀬先輩の容態は改善したと告げられた。救急隊員も的確な処置に驚いていたそうてある。
「失礼します」俺達はお辞儀をして、校長室を後にした。
「凛子さん、ありがとう」俺は凛子に礼をいう。
「ええ…」彼女は顎の辺りを軽く拳で叩きながら、気の抜けた返答をする。何かを考えているようである。
「どうかしたの?」その凛子の様子が気になり聞いてみる。
「あっ、すいません。あの綾瀬先輩の足に刺さっていた針ですが、あれはよく人知れず暗殺を行う時に忍者が使うものに似ているのです」真剣な顔で凛子は俺を見る。まだ、何かを考えているようである。
「暗殺って、綾瀬先輩を!」俺は驚きで目を見開いた。
「いいえ、殺すつもりであれば首や胸元を狙えば確実です。たた、それなりのリスクを綾瀬先輩に負わそうとしていた事は確実かと」凛子は口元に手の甲を当てて、考えながら話をしている。
「一体誰がそんな事を!?」急に怒りが込み上げてくる。
「これは、普通の人の仕業ではないと思います。あの針の扱いは本当に難しいのです。針は髪の毛よりも細いので、うっかり先に触れると自分に毒が体に回ってしまうのです」
「じゃあ、綾瀬先輩をあんな目に合わせたのは…」
「まず、間違いなく忍者の仕業だと私は思います」凛子は悔しそうに、唇を噛んだ。
「凛子さん、どうしたんだ?」彼女の様子を見て、なぜそんな顔をするのか俺には理解できないでいた。
「綾瀬先輩がこんな目にあったのは、私のせいなのでは無いでしょうか。忍者が学生を襲うなんて考えられません。忍者は私利私欲では暗殺をしないのです。標的は私なのではないのでしょうか」凛子は少し泣き出しそうな顔をする。
「そんな、それは憶測だろう。凛子さんのせいだなんて…、それに綾瀬先輩を襲うなんて、見当違いも甚だしいよ」この言葉に根拠は無いが、全てを凛子の責任にするには早計な気がした。
「そうでしょうか…」凛子は涙を手で拭った。
ポケットの中のスマホが着信音を鳴らす。
「もしもし…、えっ、綾瀬先輩!大丈夫なんですか?」綾瀬先輩からの電話であった。
「ええ、間宮さんのお陰で大丈夫よ。本当にありがとうって伝えて」俺は凛子にも聞こえるように、スピーカーモードに切り替えた。
「ご無事で良かったです」凛子は少し感極まったような感じであった。
「ありがとう。ところで、間宮さんにお願いがあって連絡したのだけれど…、いいかな?」綾瀬先輩の表情は見えないが、少し口調が真剣モードになっている。
「来週の日曜日の県大会。私の代わりに間宮さんに出て欲しいの」綾瀬先輩と、俺が代表で出る予定の空手大会である。
「そんな…、私なんて」凛子は固辞する。
「うちの空手部、女子は真剣にやっている子が少ないのよ。私の代わりって考えたら、間宮さん意外は思い浮かばないのよ。この通り、お願い!」向こうで手を合わせているようだがこちらには見えない。
「前にも言いましたが、私は空手をしりません」
「でも、組手は私よりもずっと強いわ。違うかな?」綾瀬先輩と凛子の組手を思い出した。
「少し、考えてもよいですか?」流石に即返答とはいかなかったようである。
「解ったわ。良い返事を待っているわ」そう言い残すと、綾瀬先輩は通話を切った。
目の前には、突然の事に目が天のようになった凛子の姿があった。
彼女(フィアンセ)はくノ一 上条 樹 @kamijyoitsuki
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