第5話

「間宮さんのそのセーラー服可愛いね!」転校初日のお約束の質問タイムの始まりだ。凛子の挨拶の後、1限目の授業を終えてから、彼女の机の周りは人集りになっていた。西高の制服はブレザーだが、凛子の制服は間に合わず、白のセーラー服を着用している。スカートは少し短め、いつでも外敵から身を守れるように動きやすい格好をしているそうだ。外敵に襲われるなど、俺はあまり経験は無いのでよく解らない。母さんは可愛いから、このままセーラー服で良いんじゃないって言っていた。

赤い組紐で、纏めたポニーテールが更に可愛いさを際立たせている。


「間宮さん、彼氏はいるの!?」男子生徒からの、ど直球の質問だ。俺は、凛子に見えるように小刻みに首を横に振った。まるで野球の監督がサインでも送っているかのようである。


「彼氏…、ですか?えーと…、彼氏は居ません」俺の動作を確認してから、斜め上を見て凛子は答えた。よしよし、約束は守ってくれてるようだ。


「えっ、間宮さんと京介は付き合っているんじゃないの?」大塚が食い気味に問いかける。俺は、一人転けそうになる。


「私と京介様とはいいな…、いいえ、京介君の事はいい人だなとは想いますけど、お付き合いは…していません」言葉を選んで誤魔化しているようだ。なんだか危なっかしい。


「じゃあ、俺、恋人候補に立候補する!」

「俺も!俺も!」なんだか男子生徒達に響めきが起こる。なんだか、彼らの恋の導火線に火が着いたようであった。


「京介の事は良いなと思っているんだ…。しかも、間宮さんは京介のウチに一緒に住んでいるのでしょう?」大塚の言葉が水をさす。男子が再びシュンとする。


「ええ、京介君は、とても良い人です。私達は遠い親戚って設定ですので一緒に暮らしています」言いながら凛子は少し不満そうな目を俺に向ける。


「設定?そうなんだ…」なんだか大塚の顔も不機嫌になった。男女が同じ家に住んでいる事が、道徳的に嫌悪感があるのかもしれない。しかし、すぐに笑顔に戻った。


「ねえねえ!間宮さんは何処から転校してきたの?」男子が質問する。


「滋賀県の甲賀市です」凛子は和やかに返答する。


「甲賀って忍者の!?」大塚が手裏剣を投げるような仕草をする。俺は、またズッ転けそうになる。


「大塚さんは、忍者をご存じなのですか!?」凛子は立ち上がり大塚の両手を掴む。なんだか嬉しそうだ。


「ええ…、誰でも忍者は知っているわ」大塚はびっくりしたようだ。


「嬉しい!」凛子は感極まったようである。


「おほん!凛子さんちょっといいかな?」俺は、咳払いをしてから、なんだか危なっかしいと思い凛子を呼んだ。


「はい、京介様…君!」凛子は立ち上がると、生徒達を掻き分けて、飼い犬のようにすっ飛んで来た。彼女に尻尾があったら思いっきり振っているだろう。


「いいかい何度も言うけれど、忍者と許嫁の話は駄目だよ」俺は、小声で念を押した。


「なんだ、その話ですか…。解かっております」不満度満開の顔である。アヒルのように唇尖らせている。その仕草も可愛い。


「くれぐれもお願いします」俺は、彼女に何度目かの懇願をした。


「京介!間宮さん返してよ」大塚が大きな声で、催促する。


「あ、ああ」俺は自分の席に戻る。凛子も再び、質問責めの場所に戻った。


しばらくすると二時限目始業のチャイムが鳴り先生がやってきた。生徒達は蜘蛛の子を散らすように自分の席に座る。彼らはこれを、やすみ時間の度に繰り返した。



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